(※写真はイメージです/PIXTA)

選ぶなら「借家」か、それとも「持ち家」か…。なかなか決着のつかない論争です。金銭的な損得の差だけでなく、現在の日本が置かれた状況まで踏まえて考えた場合、どのような展望になるのでしょうか。不動産を所有するメリット・デメリットも踏まえつつ、経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

損得視点では決着がつきにくい「借家・持ち家論争」だが…

借家に住む方が得か持ち家に住む方が得か、という論争は、プロたちの間で活発に行われています。ということは、どちらに住んでも損得を考えるとそれほど違わない、ということなのでしょう。

 

それなら、別の観点から考えてみましょう。筆者が重視しているのは「悲惨な老後を避ける」という部分です。長生きしている間にインフレが来たら、値上がりした家賃を長期間払い続けなくてはならず、老後資金が底を突いてしまうリスクが高まります。そうしたリスクを避けるためには、老後は自宅に住んだほうが安全だと思います。

老後の借家暮らしは「リスクが大」といえるワケ

老後資金のリスクは「長生き」と「インフレ」です。長生きしている間にインフレが来て生活費が高騰すれば、現役時代に蓄えた老後資金が底を突いてしまうリスクが高まるからです。長生きはよいことですが、老後資金のことを考えるとリスクなのです。

 

そんなときに、高騰した家賃を長期間支払わなければならないのでは、ダブルパンチになってしまいます。それは避けたいですね。

 

ちなみに、かつては筆者がインフレリスクを唱えても「過去30年もインフレが来ていないのだから、今後も来ないだろう」と考える人が多かったのですが、ロシアのウクライナ侵攻によってインフレが現実のものとなり、将来のインフレリスクに備える必要性を理解していただけるようになったと思います。

 

戦争によるインフレのほかにも、少子高齢化による労働力不足で賃金が上がってインフレになるリスク、南海トラフ大地震で復興資材輸入が増えてドル高となり輸入物価が高騰するリスク等々ありますので、備えあれば憂なし、でしょう。

 

もうひとつ、まったく別の面のリスクもあります。高齢のひとり暮らしの人に家を貸したがらない大家さんは少なくないのです。つまり、なんらかの事情で引っ越しが必要になった場合、引っ越し先が見つからないリスクがあるということですね。

 

たしかに、若い人に家を貸す場合とくらべれば、高齢者に貸すほうがさまざまなトラブルが発生する可能性は高そうです。大家さんの気持ちも理解はできますが、家を借りたい高齢者にとっては困った問題ですね。

借家にくらべ、持ち家のリスクは「限定的」といえるワケ

持ち家であれば、長生きしている間にインフレが来ても、自宅に住み続けるだけなので、家賃の心配はありません。せいぜい修繕費が嵩むくらいでしょう。

 

人口減少社会ですから、自宅が値下がりするリスクはありますが、住み続けるならば値下がりは気になりません。もっとも、自宅を売って老人ホームに移ることを考えると、自宅が値下がりすると困りますから、郊外の広い家から都心の手ごろなサイズのマンションに引っ越すことは検討してもよさそうです。

 

その際は、高齢者ばかり住んでいるマンションよりも、若い人が住んでいるマンションのほうがいいかもしれませんね。年金暮らしの高齢者ばかりだと、管理費や修繕積立金が払えない住民が増えてくる可能性もありますから…。

若かりし日の「住宅ローンの支払い」に感謝する日が来るかも

筆者が持ち家を推奨する理由のひとつは、人間の意志の弱さです。「現役時代は借家に住んで、定年退職したら自宅を買おう」と考える場合、自宅購入資金を貯めておかなくてはなりません。借家の家賃を払い続けながら自宅購入資金を貯めるのは、容易なことではないでしょう。

 

よほど意思が強ければ別ですが、住宅購入資金を貯める必要性は頭で理解していても、つい贅沢をしてしまう、というリスクは十二分に理解しておく必要があります。普通の人は、禁煙やダイエットに苦労したり、夏休みの宿題を最終日に泣きながら仕上げたりするわけですから。

 

その点、若いときに住宅ローンを借りて家を買ってしまえば安心です。銀行が毎月預金から引き落としてくれますから、読者は残った預金残高の範囲内でしか贅沢ができませんから。銀行の親心に感謝です(笑)。

貸家の所有はリスク大…興味があるなら「REIT」にしよう

筆者は、自宅保有を勧めていますが、それ以外の不動産(具体的には貸家)の所有はお勧めしていません。

 

貸家は家賃収入が魅力的に見えますが、借り手が替わるたびに壁紙やらフローリングやらを張り替える費用もかかるでしょうし、住民トラブルに対応する手間もかかりそうです。

 

また、借り手がつかず空き家になるリスクもありますし、周辺に同様の空き家が増えれば家賃水準が低下するという、さらなるリスクもあります。少子化で新しく家を借りる人が減ることが予想されますから、それらのリスクをしっかり認識しておく必要があるでしょう。

 

「どうしても貸家を持ちたい」という場合には、REIT(不動産投資信託)という投資商品を購入した方がまだマシなので、そちらを検討してはいかがでしょうか。プロが投資家から資金を集めて賃貸不動産を購入し、得られた家賃を(コストや手数料を差し引いたあと)投資家に分配する、というものです。不動産投資は簡単ではありませんから、初心者が自分で投資するよりも、プロの手を借りた方がマシだと思いますよ。

 

本稿は以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。

 

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「幻冬舎ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

 

 

塚崎 公義
経済評論家

 

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