前回に引き続き、事業承継の対策をしないと、どのようなリスクがあるのかを見ていきます。

経営者の急死で倒産に追い込まれるケースも

●前経営者の急死で経営が混乱する

 

経営にもっとも大きな打撃を与え、会社存続に関わるリスクです。経営者が急死するなどして突然いなくなってしまうと、何の準備もないところから手探りで事業承継が行われることになります。

 

後継者を誰にするかもわからず、「とりあえず」と場つなぎ的な人材が採用されるようなケースでは、社内の求心力が一気に低下し、社外の信用にも傷がつきがちです。

 

特に自らの感覚を大切にして経営判断を行ってきたようなワンマン経営者が突然いなくなれば、指揮系統は大きく混乱し、意思決定もスムーズにいかず、経営が立ち行かなくなります。私も経営者の急死がきっかけで倒産に追い込まれた企業を数々見てきました。

 

このようなリスクに関しては、事業承継の準備をきちんとしておけば、ほとんど完全に回避できます。

従業員の生活を危機にさらす「対策の放棄」

●相続争いが起きる

 

これも親族内承継におけるリスクです。後継者に経営権を掌握させるには、自社株を集中させ、株主総会で重要事項の決議ができるよう、三分の二以上の議決権を与えるのが確実であり、事業用資産もまた後継者に託すのが望ましいですが、それを不満に思う親族がいた場合、争いの引き金になる可能性があります。

 

よくあるのが、相続時に遺留分減殺請求を起こされてしまう場合です。遺留分減殺請求とは、後継者からそれ以外の相続人が遺留分に応じて財産を取り戻そうとする請求です。

 

この請求がなされると、骨肉の争いに発展しやすく、せっかく後継者に集中させた株式も分散し、経営権の掌握が難しくなります。事前の策としては、後継者以外の相続人への配慮を忘れず、あらかじめ自分の意図するところを説明しておき、了承をとっておくことです。

 

事業承継への対策を行わないのは、こういったいくつものリスクを野放しにしていることに他なりません。

 

「忙しくて引き継ぎの準備どころではない」「まだまだ引退のことなど考えられない」という経営者もいるかもしれませんが、あえて厳しい言い方をすれば、それは結局、自分ではなく従業員たちの生活を危機にさらしているということです。

 

それはすなわち、経営者としての義務や責任を放棄した状態でいることに他なりません。だからこそ、経営者はすぐにでも、事業の引き継ぎの対策をはじめるべきなのです。

本連載は、2015年10月25日刊行の書籍『たった半年で次期社長を育てる方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった半年で次期社長を育てる方法

たった半年で次期社長を育てる方法

和田 哲幸

幻冬舎メディアコンサルティング

中小企業は今後10年間、本格的な代替わりの時期を迎えます。 帝国データバンクによると、日本の社長の平均年齢は2013年で58.9歳、1990年と比べて約5歳上昇しました。今後こうした社長たちが引退適齢期に突入します。もっと平…

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