前回は、事業承継の対策をしないと、どのようなリスクがあるのかを説明しました。今回は、円滑な事業承継のために必要な「準備期間」を見ていきましょう。

5年後、10年後・・・今と同じように健康とは限らない

現在、中小企業の経営者の高齢化が進んでいます。もちろん世の中には若き経営者たちもたくさんおり、特にICT(情報通信技術)の分野の経営者であれば平均年齢も若いと思うのですが、やはり全体として考えると、高齢化は年々、進んでいます。

 

中小企業では会社運営や経営のノウハウが経営者に集中しがちですが、それはトップがいなくなれば事業の継続が難しくなるという状態を放置していることに他なりません。

 

そうであるにもかかわらず、実に60%以上もの企業が「事業承継の計画がない」「計画はあるが進めてはいない」というのが現実です。

 

後継者対策が遅れてしまうその理由は、経営者自身に「自分の存在に対する圧倒的なほどの自信があるから」ではないでしょうか。事業を興し、繁栄させてきたことで培われた自信は、ぶれない経営判断の軸にもなり、経営者にとっての財産でもあるのですが、半面「自分の体が、明日はどうなるかわからない」というような発想はなかなか持てません。

 

たとえ明日は健康でいられるとしても5年後、10年後、同じように健康でいられるかを考えてほしいところです。

円滑な事業承継には「5年以上」の準備期間が必要

そしてもうひとつ、事業承継を前向きに進めることができない理由があります。それは、後継者選びの難しさです。

 

トップがあらゆることに影響力を発揮するような中小企業の場合、後継者によって会社の行く末は大きく左右されます。その意味では、後継者選びは事業承継を進めるうえでの最大の重要事項といえます。

 

誰を選ぶべきか。どこから選ぶべきか。どのような基準で選ぶべきか。それがよくわからずに、後継者を決めかねたまま土壇場まできてしまい、事業承継対策にも取り組めずにいる経営者は意外に多いのではないでしょうか。

 

『中小企業白書2014年度版』によると、後継者の育成に必要な期間として、中規模企業では約半数、小規模事業者でも約4割が「5年以上10年未満」と答えており、円滑な事業承継には少なくとも5年以上の準備が必要であるという認識があることがわかります。

 

[図表]後継者の育成期間

 

帝国データバンクの「後継者問題に関する企業の実態調査」の最後にまとめとして述べられている「企業のパフォーマンスは経営者の年齢が60代でピークを迎え、70歳を超えると、稼ぐ力が低下する」という分析に基づくなら、企業の永続的な成長にブレーキをかけないためには、経営者が60歳を超えたら事業承継の準備をはじめ、60代のうちに後継者を決定しておく必要があるのです。 

本連載は、2015年10月25日刊行の書籍『たった半年で次期社長を育てる方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった半年で次期社長を育てる方法

たった半年で次期社長を育てる方法

和田 哲幸

幻冬舎メディアコンサルティング

中小企業は今後10年間、本格的な代替わりの時期を迎えます。 帝国データバンクによると、日本の社長の平均年齢は2013年で58.9歳、1990年と比べて約5歳上昇しました。今後こうした社長たちが引退適齢期に突入します。もっと平…

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