株と経営を分けると、後継者が経営権を握れない・・・
もし子どもを後継者にできなくとも事業を承継したいと考えるなら、従業員などの第三者への承継を選択することになります。
親族に適任者がいなければ、次の候補として挙がるのは、役員や従業員でしょう。経営者の右腕として事業の発展に尽力してきた人材は、会社や業界についても知り尽くしていますから、後継者に指名しても社内外の信頼を得やすいはずです。それだけ聞けば、「むしろ子どもよりも最適な後継者ではないか」と考える人も多いでしょうが、それでも世襲のほうが一般的であるのは、株式の譲渡問題が高い壁となって立ちはだかっているからです。
非上場企業の株式は、換金性が極めて低いにもかかわらず評価額が高額になる傾向があります。もし第三者が経営権を保有するとなると、株式を買い取るのが不可欠ですが、そのための資金を用意するのが難しいのです。仮に資金を用意できたとしても、これまでのサラリーマン生活から、経営者というリスクの高い道に飛び込む覚悟のある従業員というのは、そうはいません。
株と経営を分けて、代表権のみを後継者に移せばいいと思う人もいるかもしれません。確かに株主総会を開き、経営者が後継者候補を代表取締役に選任すれば、代表権の委譲は完了します。後継者に金銭的な負担もありません。
しかしそうした場合、先代の経営者に議決権が残ったままとなり、経営権を握れませんから、後継者は常に株主の意見に耳を傾け続けることになります。せっかく跡を継いだのに、それでは動きにくくてしかたがありませんし、持てる力をすべて発揮できなくなってしまいます。中小企業の事業承継においては、やはり代表権と議決権はセットで取り扱うほうがスムーズにいきます。
「債務保証」に対する抵抗感も
こうした株式の問題以外にもうひとつ、第三者への承継が難しい原因があります。それは個人債務保証に対する抵抗感です。中小企業では、金融機関から事業資金を借り入れる際に、経営者が債務保証を負うのが一般的です。
創業者にとっては、自分が立ち上げた会社の借金ですから、債務保証にもさほど抵抗はないでしょうが、後継者にしてみれば、債務保証まで引き受けるのはずいぶんと勇気がいるものです。
以上のような壁もあってか、従業員を後継者と定めるのはなかなか難しく、「次期社長として名乗りを上げてくれる社員がいなくて困っている」とこぼす経営者も多くいます。
もし社内でも適任者が見つからなかったなら、後は外部から人材を登用する以外、選択肢はありません。経営能力に長けた人材を外部から招へいし、いわゆる「雇われ社長」として経営を任せるのです。
しかし現実的には、この選択もまたハードルが高いものとなっています。それなりに長く続いてきた企業には、これまでに築きあげてきた独自の経営理念や企業風土があります。たとえどれほど経営力に優れていても、理念が異なり、文化が違うような人では、会社になじむことが難しく、企業運営がうまくいかなくなります。経営手腕が高く、かつ価値観がぴったりくる人材に巡り合う確率は、そう高いとはいえないでしょう。