“上司の役割を集団内に埋め込んだ”自律性の高いチーム
その方は、教育学の教授です。教授のお話の中から、様々なヒントをいただきました。
例えば小学校では、45分間の授業時間内に、教員が児童1人1人と関わる事は、難しい事が分かっています。30人以上の児童に対し、教員は1人です。教員が児童1人1人と関わるためには、児童1人あたり僅か90秒ずつという計算になるのです。
教授は、学級において、グループダイナミクス(集団力学)を応用した「学習する集団」の育成ノウハウを開発しました。課題に対し素晴らしい知恵を出し、自律的に行動する集団が育つのです。
私は、大学に伺って教授の理論を学び、企業に特化した手法を開発しました。要点は次の通りです。
1.みんなが意義を感じる「チームのミッション」を設定する。
2.ミッション達成のための方法・計画を、自分たちで開発する。
3.計画の進捗(全体の進捗と個人の進捗)と成果を見える化する。
4.頑張っている部下の様子を全体に報せる。
5.定期的に実践を振り返り学び合う場を設ける。
これができると、これまで、上司が一手に引き受けてきた様々な役割…「問題提起」、「指導」、「進捗確認」、「ヤル気を引き出す」といったものが、集団の中に埋め込まれ、必要な時に最適な人がやるようになります。
目標設定や計画づくりに部下が参画するので、当事者意識が向上します。都度、上司に相談するプロセスが省かれるので、意思決定が早くなり、上司が思いつかないような豊かなアイデアが出ます。
イメージをしやすくするために、当社の新聞配達現場(メンバー数30名)の実践に照らし合わせ解説します。
クレームが4分の1に削減。グループダイナミクスの効果
当社では、15年ほど前、新聞の誤配達によるクレームが毎月20件以上発生していました。
直属の上司が部下に、「〇〇誤配達3件以内を目指そう」と、個別目標を設定して指導をしましたが、一向に減りませんでした。そこで、グループダイナミクスを活用した手法を導入しました。
1.「ひと月あたりの誤配達を、全体で10件以内に収める」という全体ミッションを設定しました。しかし、ミッションの意義が分からないと自分事にはなりません。そこで、誤配達を減らす意義をみんなで考えました。
すると、「お客様や社内の仲間に迷惑をかけない」というシンプルな意見が出ました。「誰にどんな迷惑がかかるか?」と深掘りしたら、特にクレームを受ける事務員さんが辛いと、心を傷める配達員が多くいました。
ミッションに「お客様はもちろん、仲間に悲しい思いをさせないため」という意義が加わり、主体的な目標に昇華したのです。
2.ミッション達成のための方法・計画は、直属の上司も加わってみんなで考えました。その結果、誤配達のない配達員の行動を細かく分解し、それをみんなが正確に再現するというアイデアが採用されました。