1,000円の大台に乗ったインパクトは大きい
10月から、多くの都道府県で最低賃金が引き上げられます。過去最大の上げ幅で、全国平均は1,004円になります。経営者の中には、「ウチは最低賃金をクリアしているから大丈夫」、「最低賃金が上がったとしても、トータルの人件費が変わらないように調整すればいい」と考える方がいます。
しかし、1,000円の大台に乗ったインパクトは大きく、これを機に賃上げムードがさらに加速することは必至です。無関係ではいられないでしょう。政府は更に、2030年代半ばまでに1,500円を目指すと明言しています。
賃上げムードの高まりとともに頭を悩ませるのが、中小企業を中心に広がる、深刻な人手不足です。
東京商工リサーチの調べによると、2023年度に賃上げを実施した企業は、84.8%に上り、その多くが、離職や人手不足から身を守るための「防衛的賃上げ」でした。特に中小企業では、業績が伴わない中で賃上げを実施したところが多く、人件費高騰による倒産が急増しています。
そんな状況下にありながら、賃上げムードを追い風に変え、「稼ぐ力」を高めている企業があります。賃金システムを改善し、「賃上げのために必要な業績を、みんなで力を合わせてつくろう」という機運を作り業績を伸ばしているのです。
本記事では、そのシステムと運用法について解説します。
「賃上げ」をきっかけに孤独に陥った社長
東海地方で製造業を営むとある中小企業は、深刻な人手不足の中、2023年、賃上げムードに押される形で少々厳しい中での賃上げを実施しました。
賃上げした当初は、社員は喜び、ヤル気になってくれたのですが、すぐに慣れてしまったそうです。それどころか、社長に次なる賃上げを期待、要望するようになりました。賃上げの原資のことなどまったく考えずの要望です。「こんなはずではなかった」…社長にとっては、社員たちの反応は予想外のものであり、裏切りとも言える行為でした。
社長は、賃上げの原資確保をたった1人で考え、孤独な日々を送っています。賃上げ問題を解決するためには、経営者だけでなく社員も、賃上げの原資について知る必要がある、と私は考えています。
米国の経営コンサルタント、アレン・W・ラッカーが、アメリカの製造工業統計データを分析した結果、賃金(全社員の総額人件費)と比例関係にあるのは、「売上総利益」(粗利益)だということを明らかにしました。売上高でも経常利益でもありません。売上総利益が増えれば総額人件費は増えるのです。
この法則を活用すると、賃上げ額から、必要な売上総利益を逆算することができます。これはパラダイムシフトです。賃金に連動することで、これまで目標数値に対し、「社長が勝手に決めたもの」、「できれば低い目標を提示して欲しい」と他人事のように捉えていた社員が、目標を自分事にするようになります。
経営者と社員の利害を一致させ、組織のパワーに変えることができるのです。社長の孤独も軽減されるでしょう。