中小企業が「すべきことをせずに増員する」ことの危険性
中小企業の人手不足が深刻化しています。日本商工会議所が今年(2023年)7月から8月にかけて行った調査によると、「人手不足」と回答した企業は68%に上り、2015年の調査開始以降、最悪の結果となりました。
東京商工リサーチの調査では、コロナ禍で人員削減をした企業の61.5%が、人材の補充回復ができずにいることが分かりました。
人手不足のしわ寄せは、現場スタッフに。現場からは、「人を増やして欲しい」という切実な声が上がっていることと思います。しかし、増員する前に、すべきことがあります。それをせずに増員しても、余計に忙しくなったり、労働生産性が下がる危険性があるのです。
すべきことを正しく行うことで、少数精鋭の組織になり、最終的には、賃上げの可能性もあります。本記事では、増員の正しい実務について解説します。
人を増やしたら、やる事も増えた……とならないために
人員を増やしたら、余計に忙しくなったというケースは、教育システムがしっかりしていない企業でよく起こります。教育システムがないと、いつまで経っても部下は仕事を覚えず、何度も上司や先輩に「これで良いですか?」と確認することになります。上司や先輩は、そのたびに自分の仕事の手を止めなければならず、仕事が滞ります。教育システムがしっかりしていないとミスも頻発します。
ミスがあると、周りのスタッフもリカバリーに多くの時間を奪われます。ミスが頻発すればチェック機能を設けなければならず、手間は増えるばかりです。気が気でなく、休日出勤することが増えたという上司を私は知っています。
チェックやリカバリーに手間を取られると、仕事が遅れます。遅れは次工程に引き継がれ、蓄積し、組織全体の生産性が悪化します。
教える側、教わる側、双方にストレスがかかり、人間関係が悪化し、せっかく育てた新入社員が数ヵ月で辞めてしまうということにもなりかねません。こうした悲劇を防ぐために、採用前に教育の仕組みを構築することが大切です。
人員を補充する前に、効果がない仕事を廃止する
増員する前には、業務効率の改善も欠かせません。効率の悪い状態で増員すると、労働生産性は著しく低下します。業務効率改善のためには、次の2つに取り組む必要があります。
1.効果のない仕事の廃止
2.滞りの改善
最初に、効果のない仕事を浮き彫りにし廃止します。「ウチは、そんな無駄な仕事はしていない」と言う方がいますが、洗い出してみると、想像以上に多くあるものです。
効果のない仕事が生まれるのは「人間の真面目さ」が原因です。私たちは、社会人になりたての頃、先輩や上司から、「仕事が終わったら、自ら次の仕事を見つけなさい」と指導されてきました。何もせずにいると罪悪感を感じ、新たな仕事を作り出してしまいますが、そこで作られた仕事のほとんどは、大した効果のないものばかりです。
とある小売店では、活用もしない顧客カルテを作ったり、必要以上に綺麗な出勤表を作り出すスタッフが現れました。さらに、スタッフがちゃんと仕事を作り出しているかを管理するために、報告書を書かせるなどという付帯業務まで増えたのです。
効果のない仕事は、勤務時間を満たすまで作られます。中には、連綿と後輩たちに受け継がれていくものもあります。
人員を補充する前に、効果がない仕事を廃止しましょう。効果のない仕事の判別法は簡単です。「この仕事は何を生み出していますか?」という問いに即答できない仕事が廃止の候補です。候補が出たら、試しにやめてみます。やめて問題があれば復活すれば良いのです。やってみると、想像以上に廃止できると思います。