80代男性、大学卒業後の生活拠点は東京に
今回の相談者は、80代の遠藤さんです。地方に所有する不動産の相続について不安があると、筆者のもとに訪れました。
遠藤さんの妻は3年前に亡くなり、いまは50代独身の会社員の息子2人と自宅で同居しています。
遠藤さんの実家は中部地方ですが、遠藤さんは東京の大学に進学し、就職・結婚。その後、二男が小学生のころにいまの自宅を購入し、40年以上その家に暮らしています。
生まれ故郷の実家には、ずっと戻っていません。
父亡きあと、母との同居を申し出てくれた妹
遠藤さんは3人きょうだいの長男で、姉と妹がいます。姉妹2人も20代で結婚して家を離れたため、遠藤さんの両親はずっと2人暮らしでした。
遠藤さんの生まれ故郷は、緑豊かなのどかなところです。父親は公務員でしたが、もともと地元の地主の家系で、自宅のほか、賃貸物件、農地、山林等も所有しており、野菜や果物の栽培もしていました。
父親が亡くなったタイミングで子どものない妹が離婚することになり、母親との同居を申し出てくれました。
独身の息子たちに、地方の不動産を相続させるのは…
遠藤さんは実家を離れていますが、「不動産は長男が引き継ぐもの」との両親の考えから、父親の所有する不動産のほとんどを相続しています。地方都市のため、相続税は気にかけていなかったそうですが、相続税を払う段になって1600万円もの納税額に驚いたといいます。
「私ももう80代になりました。次は自分の相続ですが、いまのうちになんとかしておきたいのです」
「息子たちに、大変な思いはさせられない…」
現在、実家は妹が住んでいるため、維持できています。しかし、その妹もすでに70代になり、万一亡くなれば住む人がいなくなります。遠藤さん自身も高齢となり、自分亡きあとについて考えなければなりません。都内の企業に勤務する遠藤さんの息子2人には、遠方の祖父母の家に暮らす選択肢はありません。
2人の息子に相続させて管理・維持ができるのかといえば「とても無理」というのが遠藤さんの出した結論でした。
独身の妹の生活を守ったうえで、不要な土地の処分に着手
遠藤さんの財産評価ですが、土地が多く、故郷の土地だけでも1億円近くの評価となり、相続税も1000万円ほどかかります。なかには、宅地や貸家など、今後も活用する価値のある土地も含まれています。
筆者は税理士を交えた打ち合わせの席を設け、話し合いました。その結果、現地に住む予定がないのであれば、現在暮らしている妹の生活拠点は守ったうえで、遠藤さんの判断で売却に着手し、資産を組替えをスタートしたほうがいいとの結論に至りました。そのほうが息子たちにとっても負担がなく、また、家賃収入が入る財産に変えたほうが安心です。土地を賃貸建物にすることで時価の30%程度の評価に変わり、相続税の負担も減らせます。
故郷の土地の売却・資産組替提案したところ、遠藤さんも納得し、早急に売却の準備に取り掛かることになりました。
かつては「土地=財産」との認識が当たり前でしたが、いまは、活用しない・活用できない土地は所有者の負担となるだけです。「役割を終えた土地」は処分し、活用してもらえる人に譲渡していくことが必要だといえるでしょう。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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