(※写真はイメージです/PIXTA)

父が亡くなり10年もの間、実家を占拠し続ける長女。当初は状況を見守っていた二女と三女も、時間の経過とともに自身の状況が変化し、相続問題にカタをつけたいと考えています。長女は「親の面倒を見たから、相続の権利がある」と強弁しますが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

父の遺産相続の問題、10年にわたって未解決のまま

今回の相談者は、50代の会社員の優子さんと40代のパート従業員の美香さん姉妹です。長年にわたり、実家の相続が解決せずに困っていると、筆者のもとに訪れました。

 

「父が亡くなって10年たつのですが、実家に独身の姉が暮らしており、相続の手続きができないままなのです」

 

相談者は3姉妹の二女と三女で、実家に暮らしている長女、そして二女の優子さん、三女の美香さんという構成です。二女と三女は結婚して家を出ていますが、長女は独身で両親亡きあとも実家に1人で暮らしています。

 

「13年前に母が先立ったのですが、その後、父が弱ってしまって。同居の姉がそばにいてくれ、助かったのは事実なのですが…」

 

二女の優子さんの話から、三女の美香さんが言葉を続けます。

 

「長姉は〈私が介護をしたから、家をもらうのは当然〉と主張するのです。母は急病で亡くなり、父はその3年後に亡くなっていますが、父は亡くなるまでの期間、ほとんど自立して生活できていました。母の生前は食事も洗濯も母の世話になり、父がひとりになってからは、父親の年金で総菜を買って生活しているような状態でした」

 

長女は短大を卒業後、1年ほど事務員をしていましたが、その後退職。以降はテープ起こしなどの仕事をしていると聞いたことがありますが、実情はわからないといいます。

 

母親の財産は200万円程度の預貯金と宝石、貴金属類で、これは父親の意向により姉妹3人で分けています。父親の財産は神奈川県の郊外の自宅と預貯金1000万円で、相続税はかからない額でした。自宅の名義は父親から変更していません。

時間の経過のなか、2人の妹の人生に起きた大きな出来事

二女の優子さんが現在の事情について話してくれました。

 

「じつは、夫がリストラされ、家計の収入が半分になってしまいました。下の子が来年大学受験なので、その費用の捻出に困っているのです」

 

優子さんの夫も必至で就職活動をしていますが、50代という年齢もあり、なかなか思うような就職先が見つからず、家計は非常に厳しい状況だといいます。

 

三女の美香さんは、夫が心疾患で倒れてしまったといいます。

 

「夫は福利厚生のいい会社に勤務しているので、その点は安心なのですが、以前のハードな部署から移動になり、給与が減ってしまいました。一人息子は理系の大学への進学を希望しているのですが、親の都合で進路を変えさせるのはかわいそうで…」

 

結婚以来専業主婦だった美香さんも、家計を補うために働きに出ているといいます。

 

「子どもの学費を少しでも多く準備したいのです。父の家が売れれば本当に助かるのですが、長姉が頑として聞き入れてくれなくて…」

「私を追い出すつもりなのか!」と、大声でわめき…

父親の一周忌を待って、優子さんと美香さんは長姉に遺産分割の話を持ち掛けたことがあるといいます。しかし、長姉は逆上し「親の面倒を押し付けたくせに!」「私を追い出すつもりなのか!」と激高。

 

一周忌法要のあとで親族がいるにも構わず、長姉は大声でわめき散らすなど、大変な状況になってしまいました。

 

「おじやおばたちは、暴れまわる姉を見て驚きながらも、〈お姉ちゃんは不安定になっているようだから、しばらく見守ってはどうか〉といわれ、静観することにしたのです」

 

当時、優子さんも美香さんも、すでに結婚していてマイホームを購入していました。

 

しかし、それから月日が流れ、優子さんも美香さんも生活状況が大きく変わってしまいました。

 

「仕事がないのも、結婚せずに親の残した家に閉じこもっているのも、本人の責任ですよね」

 

「これまで親の貯金も家も、姉に好きにしてもらいました。それって、私たちが援助したことになりますよね? でも、私たちが困ったときに、姉は何も協力しようとしてくれません」

 

優子さんと美香さんは、心底うんざりした様子でした。

「ずっと住んでいる=その人のもの」にはならない

筆者と提携先の弁護士は、おふたりの話を聞いたうえで状況を整理しました。

 

問題の家は父親の財産です。そこに住み続けていることが、独占していい理由にはなりません。

 

弁護士は、もし調停に持ち込まれても、長女の同居の寄与分は認められにくく、法定割合での分割になる可能性が高いこと、また、姉が今後も住み続けたとしても、状況が有利になることはないと説明しました。

 

二女と三女が希望する、父親名義の家の売却を実現するためには、まず家の名義を相続人へと変更しなければいけません。そのためには、「遺産分割協議書」を作成し、遺産分割の内容を決定し、3人で署名、実印押印をして法務局に提出することになります。

 

相続財産の金額から、相続税はかかりませんが、売却すれば譲渡税がかかってきます。しかし、居住者が売却すると「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」が使えるため、売却した利益のうちの3,000万円までは税金がかかりません。

 

※ 国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」

 

しかし、該当の家に居住していない二女と三女にはこの特例が使えないため、もしも二女・あるいは三女が相続・売却した場合は、利益のうち20%の税金(譲渡税14%、住民税6%)を払わなければなりません。

特例を使えば無税…売却したお金は均等に分割

不動産の遺産分割の方法に、代表して相続した人がほかの相続人に代償金を払うというものがあり、今回はそれが適用されるべきケースだといえるのですが、現状の長女には二女と三女に払うお金がありません。そのため、相続した家を売却し、そこから妹2人にお金を払うことになります。

 

その際「居住者である長女」が自宅を相続・売却することで、上記の居住用の特例が使えます。

 

売却価格は3,000万円と思われることから、特例を使えば「税金なし」となり、まるまる3,000万円が手元に残る計算です。

 

引っ越し費用、仲介手数料、測量費用、荷物撤去費用などを差し引くと残りはだいたい2,700万円程度となる見込みで、これを姉妹3人で分けることになります。

 

筆者は弁護士とともにこれらを長女に説明し、少しでも有利に売却して問題解決をサポートすることになりました。

 

いまの法律では、きょうだいは対等な立場です。一緒に暮らしていたという理由だけで、相続は有利になりません。

 

父親の家を3人で分け、それぞれがライフプランに合わせて活用することで、資産も生きたものとなるのです。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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