(写真はイメージです/PIXTA)

通常国会に提出されていた「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」(以下、全世代社会保障法)は2023年5月12日の参院本会議で、与党などの賛成多数で可決、成立しました。本稿では、ニッセイ基礎研究所の三原岳氏が、出産育児一時金制度の概要と引き上げ議論の経緯、今後の展望について解説します。

5―おわりに

 

本稿では、出産一時育児金を巡る今回の制度改正の内容や経緯、論点を考察した。本稿で紹介した通り、岸田首相が2023年6月の記者会見で、出産育児一時金の引き上げに言及する際、わざわざ「私の判断で」と強調したシーンに見られる通り、今回の制度改正は政治主導(というよりも首相主導)だった。
 

その結果、制度改正に至るスピードは早かったかもしれなかった31が、便乗値上げの可能性など制度改正の影響とか、「出産育児一時金の引き上げが出生率引き上げにどこまで寄与するのか」といった点が十分に詰められたとは言えない。そもそも論で言うと、出産費用が毎年1%ずつ伸びていた背景や最大1.6倍の都道府県格差の実証分析も十分とは言えない状況だ。
 

確かに安心して出産できる環境整備に向け、費用を軽減する施策は必要だが、保険適用を含めた一層の見直し論議に踏み込むのであれば、今回の引き上げの効果や副反応(便乗値上げなど)、出産費用の「見える化」の効果なども踏まえつつ、制度改正の利害得失を十分に検討する必要がある。さらに、本稿では詳しく触れなかったが、安心して出産・育児する環境の整備には、金銭面の支援にとどまらず、出産前後の相談対応の強化なども求められる。 

 


31 同じ傾向は2020年度診療報酬改定で保険適用となった不妊治療でも見られた。この時も、当時の菅首相が不妊治療の保険適用を自民党総裁選などで言明し、制度改正に繋がった。主な経緯については、拙稿2022年5月16日「2022年度診療報酬改定を読み解く(上)」を参照。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年6月27日に公開したレポートを転載したものです。

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