(写真はイメージです/PIXTA)

通常国会に提出されていた「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」(以下、全世代社会保障法)は2023年5月12日の参院本会議で、与党などの賛成多数で可決、成立しました。本稿では、ニッセイ基礎研究所の三原岳氏が、出産育児一時金制度の概要と引き上げ議論の経緯、今後の展望について解説します。

2―法改正の概要

 

1|「50万円」に引き上げ


今年の通常国会で成立した全世代社会保障法4では、出産一時育児金の支給額が原則50万円に引き上げられた(産科医療補償制度に未加入の医療機関で出産した場合か、加入している医療機関でも妊娠22週未満で出産する場合には、支給額が48万8,000円)。施行日は2023年4月。



なお、「50万円」という水準の根拠については、岸田文雄首相は「平均的な出産費用を全て賄えるように」と説明している5。つまり、出産育児一時金の支給を受ければ、出産に伴う費用をゼロに抑えられる点を強調している。



実際、厚生労働省が社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)医療保険部会に提出した説明資料6を見ると、出産費用の平均値は46万2,902円(公的病院、私的病院、診療所を含む)。正常分娩に限ると、平均値は47万3,315円とされている。このため、出産育児一時金を50万円に引き上げれば、平均的な出産費用はカバーできるようになるという判断だ。 

 


4 なお、ここでは詳しく触れないが、身近な病気やケガに対応する「かかりつけ医機能」の強化に関する内容が規定されたほか、3年に一度の介護保険制度改正についても細かい案件が盛り込まれた。かかりつけ医に関しては、拙稿2023年2月13日「かかりつけ医を巡る議論とは何だったのか」(上下2回、リンク先は第1回)。介護保険制度改正に向けた議論については、拙稿2013年1月12日「次期介護保険制度改正に向けた審議会意見を読み解く」を参照。
5 2023年2月15日、第211回国会衆院予算委員会における発言。
6 2022年10月13日、社会保障審議会医療保険部会資料。

 

2|引き上げに伴う財源


引き上げに伴う財源は630億円程度とみられており、これまで通りに健康保険組合などの保険者が負担するほか、75歳以上の高齢者が加入する後期高齢者医療制度にも7%の費用支出を求めることになった7



この点について、医療保険部会が2022年12月に取りまとめた「議論の整理」では、▽2008年度の後期高齢者医療制度が創設される以前には、国民健康保険に加入していた高齢者世代も出産育児一時金を含めて、子ども関連の医療費を負担していた、▽少子化に全ての世代が正面から向き合い、克服に向けた取り組みが必要――といった問題意識で検討した旨が示されている。



併せて、今回の法改正では、後期高齢者医療制度に加入する所得の高い人については、限度額を引き上げる制度改正(66万円→80万円)も講じられている。これを加味した加入者1人当たりの保険料への影響試算8として、年間ベース(2024年度試算)で健康保険組合と協会けんぽは600円程度、国民健康保険で約200円、後期高齢者医療制度で約600円の増加になるとされている9



では、今回の制度改正に至るプロセスでは、どんな点が論じられたのだろうか。議論の経過を振り返るとともに、今後の論点も取り上げる。 

 


7 ただし、後期高齢者医療制度から健康保険組合などに対して、負担金が実際に支出されるわけではない。後期高齢者医療制度は健康保険組合などから「支援金」を受け取っており、今回の制度改正による後期高齢者医療制度の増額分は支援金の収入と相殺される。
8 2023年12月15日、社会保障審議会医療保険部会資料。
9 ただし、後期高齢者の負担増については、2年間の経過措置が入るため、負担増は段階的になる。さらに、後期高齢者医療制度の負担を肩代わりするため、2023年度限りの暫定措置として、約76億円が全額国費で暫定的に計上された。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年6月27日に公開したレポートを転載したものです。

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