(※写真はイメージです/PIXTA)

古くから使われている「坊主丸儲け」という言葉、現在では「お寺は税金が課されない」というイメージから使われていることが多いようです。しかし、そんなお寺も税務署に目を付けられることがあるようで……。本記事では、辻・本郷 税理士法人の菊池典明税理士が、住職の寺門さん(仮名)の事例とともにお寺の税務調査について解説します。

税務署から「多額の追徴課税」を受けたワケ

寺門さんのお寺は宗教活動のみ行っており、収益活動は行っていませんでした。そのため、法人税の申告はしていません。また、給与の支払いについては、その支払い時にきちんと源泉所得税を徴収し、期限内に納税を行っていました。ところが、多額の追徴課税を受けてしまったのです。いったいなにがいけなかったのでしょうか。

 

税務署から指摘を受けた内容は、「お布施3,000万円を私的に流用しており、これを給与とみなして所得税を追徴課税する」というものでした。

 

具体的には、本来寺門さんが個人で負担すべき飲食代や生活費を宗教法人が負担し、宗教法人の費用としてしまっていたのです。給与は現金による支払のほか、現物での支給も給与として取り扱われ、所得税の対象となります。このため、寺門さんの飲食代や生活費は給与とみなされてしまったのです。

 

これ以外にも、父の逝去前の医療費や介護費を宗教法人から支払っており、さらに、主に家族での外出や送り迎えなどプライベートで使用している車を宗教法人で購入したり、子どもの学費や習い事の月謝なども宗教法人から支払っていたり、はたまた、自宅のリフォーム代を宗教法人の修繕費とするなど、現物での支給とみなされる行為が多々ありました。

お布施の私的流用で課される「ペナルティ」

寺門さんは決して悪意があったわけではなく、ただ単に「知らなかっただけ」です。しかし、税務署は甘くありません。寺門さんの確定申告の内容から、現物での支給があると睨み、税務調査を申し入れてきたのです。

 

そして、税務署の目論見どおり、寺門さんは多額の現物支給を受けており、それらを給与所得として認定されてしまいました。その結果、本税である所得税に加えて、以下のようなペナルティを課されることになったのです。

 

■申告漏れに対して課される「過少申告加算税」

今回の寺門さんのように申告はしたものの、申告した所得に漏れがあった場合には、「過少申告加算税」が課されます。この過少申告加算税は、新たに納めることになった所得税の10%相当です。

 

ただし、新たに納める税金が当初納めた税金と50万円とのいずれか大きい金額を超えている場合、その超えている部分については15%になります。

 

■納税が遅れたために課される「延滞税」

税務調査によって新たに納める税金は、本来であれば、当初の申告期限内に納めなければならない税金です。税務調査によってあらためて申告するまでの間、納税が遅れてしまっていたことになりますので、その遅れた期間の利息に相当する「延滞税」も課されます。

 

■悪質と判断された場合に課される「重加算税」

さらに、所得税を意図的に小さくするために、現物支給を給与から除外していたと判断された場合には、「重加算税」という非常に重たいペナルティが課されます。重加算税が課されると、新たに納めることとなった所得税の35%が過少申告加算税の代わりに課されることになります。

個人と法人の会計区分は明確に

では、寺門さんはどのようにすればよかったのでしょうか。

 

それは、個人の家計と宗教法人の会計とを明確に区分することです。寺門さんは、個人の家計と宗教法人の会計をあたかも「同じ財布」かのように管理していました。そのため、本来は個人で負担すべき生活費や車の購入、子どもの学費等を宗教法人から支払ってしまっていたのです。

 

これを防ぐためには、常日頃から宗教活動に伴って生じる収益とこのために必要な経費を正確に把握し、個人の家計に属する支出は寺門さん自身の給与から支払うという当たり前のことを徹底する必要があります。

 

幸いにも寺門さんは意図的に所得を隠したとは判断されず、重加算税は免れましたが、それでも住職を継いでからの3年間にわたって本来申告すべきだった所得3,000万円に対して、600万円の所得税がかかり、さらに、過少申告加算税と延滞税として150万円を超えるペナルティが追徴課税されることになりました。

 

父の跡を継ぎ、まじめに宗教活動を行ってきた寺門さんにとって、大変ショッキングな出来事だったことは言うまでもありません。

 

しかし、この現物支給に対する追徴課税は、宗教法人と住職の関係に限ったことではなく、あらゆる法人格とその経営者、さらには個人事業主にとってもあてはまる事例です。思わぬ税務署からの指摘を受けることのないよう、個人の家計は、法人の会計や事業と明確に切り離して管理しましょう。

 

 

菊池 典明

辻・本郷 税理士法人

医療&パブリックグループ 税理士 

 

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