母の死で判明した「仕送り貯金」
45歳になるAさんは、東京でデザイナーの会社を経営しています。Aさんの実家は東北地方で、大学進学を機に東京に住み始めてからは、年に1~2回、長期休みのタイミングで帰省する程度です。Aさんには76歳の母親がいます。父親が12年前に亡くなってからは、母親は一人で暮らしてきました。
Aさんは高齢になる母親が心配になり、東京に呼び寄せて2人で暮らそうと何度か誘いましたが、母親は、自分の生家も近く、親戚や友人もいるいまの家のほうがよいというのです。一緒に暮らすことは難しい状況でした。経営する会社の売上は好調だったこともあり、父親が亡くなってからは、Aさんは一人になる母親を案じて、仕送りをしてきました。月々6万円~10万円ちょっとのあいだで、そのときの状況に応じて送金を続けていました。
そんなある日、母親が亡くなり、相続が発生しました。Aさんは悲しみに暮れながらも、相続や名義変更の手続きをはじめていくことに。すると、父親が亡くなったときの財産はほとんど減っておらず、Aさんからの仕送りにいたっては、Aさん名義で貯金をしていたことがわかったのです。
Aさんは、帰省するたびに見る母親の様子から、日ごろ慎ましく暮らしていることがわかっていました。20年近く履き続けているジーンズや内ポケットに穴の開いたカバン、特売の日にまとめ買いした食料品から、「こんなに節約して……。昔はおしゃれがすきだったのに」「ネットも使えないのに、車で買い物に行くとしてもまとめ買いしてたら重いだろうに」と、たまには贅沢してほしいと願うようになりました。
できる限りの送金をして、母親に使ってほしいと思っていたのですが、まったく手をつけられておらず、生活費を切り詰めて過ごしていた状況に、Aさんは涙を流さずにはいられませんでした。おそらく、Aさんの将来のことを考えて、お金を少しでも残そうとしていたのでしょう。
そうなると、相続人はひとりっ子であるAさん一人であるため、母親が大事に残してきた財産については、相続税がかかる対象です。相続税の申告の手続きを始めたAさん。近所の人などに助けてもらいながら、なんとか進めていきました。そこで気になったのは、母親に渡したつもりだったAさんの仕送りについてです。
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