写真提供:一級建築士事務所MUK 写真:西 恭利

知られざる「日本の住宅とその性能」について焦点をあてる本連載。今回のテーマは「太陽光発電」。最近、高性能な住まいとセットに語られることが多くなっていますが、実際はどうなのでしょうか。今回は、なぜ国や自治体が普及促進を図っているのか、また注目を浴びている東京都の太陽光発電の設置義務化の制度について解説します。

自治体が先行する住宅の省CO2化への取り組み

国は、住宅の省エネ・省CO2の促進に向けて、法制度等を次々と改正して、推進を図っています。一部の自治体は、それ以上に熱心に取り組んでいます。例えば鳥取県は、「とっとり健康省エネ住宅”『NE-ST』」(図表4)という独自の高気密・高断熱の基準を定め、補助金制度も整え、住宅の高性能化を推進しています。東京都も、「東京ゼロエミ住宅」という高断熱の省エネ住宅の独自基準を定め、助成金を出しています。

 

【図表4】

 

東京都の場合、それ以上に注目を集めており、賛否両論があるのが、新築住宅への太陽光発電の設置義務化です。ただ、反対意見については、誤解も多いようなので、この制度について少し丁寧に説明していきましょう。

東京都の設置義務の対象は大手住宅事業者

この制度は、都内の年間供給床面積が2万m2以上の住宅事業者を対象に都内で供給する住宅に一定の割合以上で太陽光パネルの設置を義務付けるものです。年間2万m2以上を供給している住宅事業者というのは、大手ハウスメーカーや建売住宅事業者のうち、概ね50社程度が対象になる見込みということです。

 

義務対象は、施主(消費者)ではなく、あくまでも住宅事業者であり、新築のみが対象で、既存住宅は対象外です。すでに条例は可決されており、周知期間を経て、令和7年4月からこの制度は施行されることになります。

 

対象事業者に対しては、再エネ設置基準を上回る太陽光パネルの設置が求められます。再エネ設置基準とは、以下の数式で求められるものです。

 

再エネ設置基準=①設置可能棟数×②算定基準率×③棟当たり基準量

 

①設置可能棟数は、太陽光発電の設置が不可能な狭小住宅等は算定から除外されます。②算定基準率は、【図表5】に示すように、都心部の日照条件が不利な地域の基準率は低く設定されています。③棟当たり基準量は、2kWと、一般的に戸建住宅に設置される容量に比べるとかなり少ない設定になっています。

 

【図表5】

 

つまり、対象事業者が新築する全棟への太陽光発電の設置を義務づけるものではなく、日照等の条件が整っている住宅に対して、一定割合以上での設置を義務付ける制度です。

 

※制度の詳細については、東京都のホームページから確認ください。

注文住宅の施主は住宅事業者からの説明に基づき判断する仕組み

この制度では、住宅事業者に対して、注文住宅の施主等に、断熱・省エネ、再エネ等の環境性能に関する説明を行うことが求めています。そして施主は、住宅事業者からの説明や東京都の配慮指針に基づき、太陽光パネルの設置について判断する仕組みです。つまり、施主は設置しないという選択をすることも可能になっています。

誤解の多い東京都の設置義務制度

この制度については、高性能な住宅を建てている意識の高い工務店等の住宅事業者はおおむねとても好意的に評価しているようです。一方で、一般の方や有名なYouTuberからは批判的なコメントが寄せられており、賛否が極端に分かれています。ただ、批判的なコメントには、誤解に基づいている思われるものがかなり散見されます。

 

たとえば、「東京のような日照条件の悪い密集地において、太陽光パネルの設置を義務化するのは愚策」という意見がとても多く見られます。これについては、上述のとおり、日照条件の悪い住宅にも設置を義務付けるものではなく、都が定める「再エネ設置基準」は、日照条件の良い住宅のみへの設置で、十分に達成できるものです。日照条件が悪く経済合理性の成り立たない立地にまで設置を義務づける制度ではありません。

 

また、「結局は消費者に負担を押し付けるもので、金銭的なメリットなどない」という意見も多くなっています。これについては、東京都は、「例えば、4kWの太陽光パネルを設置した場合、初期費用98万円が10年(現行の補助金を活用した場合6年)程度で回収可能です。また、30年間の支出と収入を比較すると、最大159万円のメリットを得られる計算となっている。」としています。

 

この経済的なメリットの試算については、福岡市に本社置く高性能住宅の有名工務店で、同社が施工する住宅のほとんどには太陽光パネルが搭載されており、太陽光発電に知見が豊富なエコワークス株式会社の小山社長に確認したところ、

 

「経済産業省のZEH補助事業で建てられた住宅の太陽光発電の実際の発電実績を踏まえると、東京都の試算はかなり安全側で試算されていて、実際の経済的なメリットはもっと大きくなるのではないだろうか」

 

との見解でした。

 

さらに東京都は、今後補助制度の拡充を図り、太陽光パネルの更なる設置を後押ししていくことや、初期の費用負担が厳しい方には、リース等を利用して初期費用をゼロにする方法等も勧めています。

初期費用がゼロの制度の例

東京都が選択肢として勧めている初期費用がゼロで太陽光パネルを設置できるサービスはいくつかあります。この中で、LIXILと東京電力エナジーパートナーの合弁会社であるLIXIL TEPCOスマートパートナーズ(以下LTSP社)が提供している「建て得」というサービスについて簡単に紹介します。

 

このサービスは、設置する太陽光の容量によって条件が異なりますが、9kw以上(積雪~50㎝の地域)の場合は、太陽光発電に係る製品代も工事費も実質0円になります(9kw未満の場合の製品代は実質0円で工事費は施主負担)。

 

発電した電気の自家消費利用は、施主が使い放題です。余剰電力の売電収入はLTSP側に入り、この収入を原資に同社は太陽光発電システム設置に係る費用の割賦の支払いを信販会社に行います。発電量が想定よりも少ない場合や施主の自家消費が想定以上に多い場合も施主に負担が求められることはありません。ただし蓄電池やおひさまエコキュート等自家消費率を高める設備機器の設置には制限があり、新築住宅には一定のLIXIL製品の採用が求められる等の条件があります。

 

またこの派生サービスに「建て得でんち」というものがあります。これは、指定の蓄電池の設置費用は施主負担ですが、蓄電池による自家消費は認められます。

 

面白いのは、これらのサービスで設置する設備の所有者は施主であるということです。つまり、補助制度がある場合は、施主は補助制度を活用することができるのです。

 

ちなみに東京都は、今年度は太陽光パネルに対しては10万円/kW、さらに蓄電池の設置に対して補助率3/4の非常に手厚い補助制度を用意しています。現時点ではまだ補助の枠は残っているそうです(2023年6月21日時点)。

 

初期費用がゼロの仕組みと、これらの補助制度を組み合わせて活用すれば、とてもお得に省エネ性能の高い家を実現することが可能です。

 

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