借主逮捕で音信不通→借主母の許可もらい家財処分も…釈放された借主が大家を訴訟!裁判所の「意外な判決」【弁護士が解説】

借主逮捕で音信不通→借主母の許可もらい家財処分も…釈放された借主が大家を訴訟!裁判所の「意外な判決」【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

ある日、警察から「借主が逮捕されました」と連絡が入ったアパートオーナー。緊急連絡先に記されていた借主の母親に連絡をとるも、母親は家賃の支払いを拒否。大家は母親の許可をとり部屋の荷物をすべて処分したところ、釈放された借主は「勝手に家財処分したことは違法だ」と裁判沙汰に。裁判所はどのような判決を下したのでしょうか。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際の判例をもとに解説します。

音信不通の借主…母親の許可をとり、荷物をすべて処分するも

【アパートオーナーからの相談】

私の所有しているアパートの賃借人が、窃盗未遂で警察に逮捕されたと警察から私宛に連絡がありました。

 

困ったことになったと思い、契約書で緊急連絡先に書いてあった賃借人の母親に連絡をして、今後の家賃の支払いはどうするのか、賃借人の代わりに家賃は支払ってくれるのか等を確認しました。

 

そうしたところ、賃借人の母親は、「自分は家賃も支払えない。賃貸人に一任するので、部屋の荷物は賃貸人のほうで処分してもらいたい」と言ってきました。私は、念のため、母親から「荷物の処分をこちらに一任してもらうために一筆ほしい」と頼み、母親からその旨を書いた手紙をもらいました。

 

その後、2ヵ月ほど経っても賃借人が釈放されたという連絡もなかったため、私のほうで賃借人の居室内の家財道具をすべて処分しました。

 

それからさらに約1ヵ月経ったころ、突然釈放されたと賃借人から連絡があり「部屋の荷物が全部処分されている。どうなっているんだ」と言われました。

 

私からは、「あなたの母親から荷物の処分などは一任されているので、全部処分した。ただ、今後の生活用品を揃えるためのお金として10万円は渡す」ということを伝えました。

 

しかし、賃借人は納得せず、勝手に家財等を処分したことは違法であるとして、慰謝料200万円を求めて訴訟を起こしてきました

 

賃借人が逮捕されて連絡が取れず、やむなく緊急連絡先とされていた賃借人の母親の了解も取ったうえで行ったことですが、それでも私に非があるのでしょうか。

 

【弁護士の解説】

本件は、東京地方裁判所令和2年2月18日判決の事例をモチーフにしたものです。本件のように、突然所在不明となった賃借人について、賃貸人が裁判の手続を経ずに賃借人の室内の荷物の処分や鍵の交換等を行うことは、法的に「自力救済」といいます。

 

この自力救済は、原則として許されないというのが法律の考え方です。例外的にこの自力救済が許されるのは、以下のとおり極めて限定された場合です。

 

「法律の定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるにとどまる」(最三小判昭和40年12月7日判決)

 

この点、本事例の特殊要因としては、「緊急連絡先」として契約書に記載されていた賃借人の母親から居室内の荷物の処分について承諾を得ていたことであり、この点が法的にどう評価されるのかという点が問題になりました。

 

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを、北村氏が再監修のうえGGO編集部で再編集したものです。

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