マネジメントは「部下との絆も手に入れる」気持ちで臨む
マネジメントとは、チームを構成するメンバー一人一人と真摯に向き合い、一人の人間として気にかけ、成長をアシストしていくということです。
単に仕事を振ってやらせるだけではなく、部下の仕事に直接手を突っ込み、モチベーションを高めながら、スキルの向上を促していく。さらに部下を見守り、チームとしての成果が上がるよう導いていく。そんな意識が必要です。
マネジメントというと、「部下を管理する」というイメージがつきまといがちですが、実際にはもっと深く一人の人間にコミットし、手間ひまかけて育てていくことといったほうがいいかもしれません。
「そこまで気にかけなければいけないのか」と言われそうですが、単に進捗を管理するマネジメントでは、出せる成果は限られます。手がかかっても一人一人しっかり指導したほうが、ずっと大きな成長が期待できます。もちろん一人一人能力や個性が異なりますから、非常に骨の折れる作業です。
でも、私の経験から言うと、マネジメントほどやりがいがあって、面白い仕事はありません。部下の成長を後押しし、チームとしての結果が出たときの満足感は、何ものにも代えがたいものがあります。
私はこれまでのビジネスマン生活の中で、困難な予算編成を達成したり、効率化を促すシステムの実行や大型の設備投資案件を承認にこぎつけるなど、幾度となく重要な成果を経験してきましたが、それは私一人ではなく、すべてチームで成し遂げたことです。
達成にこぎつけるまでには、さまざまな困難があります。幾度となく語り合い、ねぎらい合い、時には対立し、私が部下を叱責することもありました。
そうした関係性の中では、揺るぎない絆が生まれます。単なる仕事仲間を超えた、かけがえのないつながりです。それは幸せなことに、私が会社を辞めた今に至るまで、途切れることなく続いています。
マネジメントとは、そうしたかけがえのない、生涯の宝となる絆をもたらしてくれるものでもあるのです。
仕事の成果だけでなく、部下との絆という生涯の宝も手にできる。マネジメントはそんな気持ちで臨んでいただきたいものです。
部下と良い関係を築くには「当たり前の礼儀」が不可欠
カナダ人実業家のキングスレイ・ウォードは、著書『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』(新潮文庫)の中で、こんなことを述べています。
「礼儀正しさにまさる攻撃力はない」
これは慧眼です。経験上、私もその通りだと感じます。私は東レ時代、部下によく「礼儀正しさで役員にもなれる」と言っていたものですが、それは決して誇張ではありません。そのくらい、ビジネスにおける礼儀正しさとは重要なのです。
当たり前のことですが、仕事は一人でできるものではありません。上司、部下、同僚、社内外の関係者や得意先など、さまざまな人とコミュニケーションをとりながら、ワンチームで共に作り上げていくものです。
そこでいかに成果を上げるかは、いかに良い関係を構築するかにかかっています。信頼や協力を得られるかは、「自分が他人とどう接するか」で決まるということです。
相手がどのような立場の人間であろうと、みくびったりせず、不遜な振る舞いをせず、分け隔てなく礼儀正しい行動をとれる人が、協力や信頼を得て、仕事を成功へと導いていくことができるのです。
このことは、部下をマネジメントする際も同じです。部下だから下に見ていい、横柄な態度をとっていいと考えていたら、それは大きな間違いです。悪気なくそういう態度をとっている人もいるかもしれませんが、すぐにでも改めるべきです。
そんなことをしていたら、部下だけでなくいずれ社内外での信頼を失い、自分のみならず、会社の品格や信用にも悪影響を与えると言っても過言ではありません。
では、「礼儀正しさ」とは具体的にはどういうことか。それは「時間を守る」「きちんと挨拶をする」「お世話になったらお礼を伝える」「過ちを素直に認める」「相手の話をよく聞く」「相手の目を見て話す」「身だしなみを整える」など。いわば子どもでもわかるような、人として守るべきモラルです。
どれも当たり前のものに思えますが、これを実行できる人はじつは少数派です。当たり前すぎて軽く考えてしまう、だから実行できないという人が驚くほど多いのです。
礼儀正しさは、人としての原理原則です。ここを守るだけでも、部下のやる気は変わります。当たり前の礼儀を身につけ、マネジメントの武器にしていきましょう。
佐々木 常夫
株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ 代表取締役
1944年秋田市生まれ。69年、東京大学経済学部卒業後、東レ株式会社に入社。家庭では自閉症の長男と肝臓病とうつ病を患う妻を抱えながら会社の仕事でも大きな成果を出し、01年、東レの取締役、03年に東レ経営研究所社長に就任。内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授などの公職も歴任。
「ワーク・ライフ・バランス」のシンボル的存在と言われている。
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