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「自信」はなくていい
マネージャーの仕事は、プレーヤーの仕事とはまったく異なります。
プレーヤーが「与えられた仕事に全力を尽くす」のに対し、マネージャーは「部下を率いて目標を達成する」のが使命です。マネージャーとしての務めを果たすには、この変化に対応し、これまでとは思考や行動を変えなくてはなりません。
しかし、中にはこの変化にうまく対応できず、不安を抱え、自信を失い、心が折れそうになっているマネージャーもいると思います。
チームのビジョンを明確に示せない。部下とうまくコミュニケーションがとれない、目標を達成できる気がしない…「こんなことでマネージャーが務まるのか」「自信がないまま続けていいのか」と、弱音を吐きたくなることもあるかもしれません。
そんなときは、こう考えてみましょう。
「自信なんて、なくて当たり前」
実際、誰だって大なり小なり不安を抱えているものです。「100%の自信を持って仕事をしています」という人に、私はいまだかつてお目にかかったことがありません。仕事というものは、そもそも「自信がない」のが普通なのです。
「自信がない」というのは一般的にネガティブに捉えられがちですが、私は必ずしも悪いことだとは思いません。自信がないからこそ、自分を省みたり、自分を客観視することができるからです。
何事かを成し遂げて自信を得るのももちろん大事ですが、それ以上に「自分には欠けているものがある」と自覚することのほうが重要です。その自覚が謙虚さを生み、人から学び努力しようという姿勢につながります。
自信というのは、このように「自信のなさ」からもたらされる謙虚さが育んでくれるものではないでしょうか。
「自信がない」と思ったら、誰かに教えを乞いましょう。遠慮せず「教えてほしい」とお願いし、助けてもらえばいいのです。自信などよりむしろこれができるほうが大事です。
世の中には根拠もなく自信満々の人もいますが、そういう人は謙虚さが育たず、危ういものです。「ちょっと自信ないなあ」くらいが、ちょうどいいのです。
かっこ悪いところを見せていい
マネージャーは、部下の前では完璧でいなくてはいけない。無様な姿、弱い自分を見せてはいけない…そう思ってはいませんか?
だとしたら、それは大きな誤解です。かっこ悪いところを見られたからって、気に病む必要はまったくありません。
たとえば、部下がいる前で上司に叱られてしまったとします。
「納期が遅れているじゃないか」「大丈夫なのか」「マネージャーなんだからしっかりしてくれよ」云々…こんなとき、なんとかメンツを保とうと言い訳をしたくなります。部下の手前、上司らしいことを何か言わなければと思うかもしれません。
でも、こういう場合弁明したり上司に食ってかかるのは逆効果です。かえって部下を不安にしてしまいます。もっともなことを指摘されたのであれば、「申し訳ありません、以後気をつけます」と丁寧に頭を下げましょう。
叱られている上司を見て、「マネージャー、かわいそう…」と思う部下もいるかもしれませんが、心配こそすれ、見下す部下はまずいません。むしろ礼儀正しく頭を下げている姿を頼もしく、心強く感じるはずです。
また、叱られた原因が部下にあったとしても、決して部下のせいにしてはいけません。
部下のミスは上司の責任。必要に応じて指導はしなければなりませんが、その場ではあなたが引き受け、責任者として粛々と謝罪しましょう。
また、チームで一生懸命に準備してきた企画のプレゼンテーションがうまくいかなかったなどといった場合、「合わせる顔がない」「みんなになんと言ったらいいだろう」と落胆することもあるかもしれません。
そのような場合も、かっこつける必要はありません。無理して虚勢を張ることもありません。「ごめん、ダメだった…」「ガッカリだ、泣きたいよ…」「でもめげずに挑戦していきたいよね…」など、あなたらしく自然体で振る舞いましょう。
本当は落ち込んでいるのに、「みんなを鼓舞しなければ!」と演技しても、結局見抜かれてしまいます。それだったら、一人の人間としてあるがままでいたほうが、信頼はずっと深まります。素直に感情を表していくことで、部下との絆を強め、失敗をチャンスに変えていきましょう。
佐々木 常夫
株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ 代表取締役
1944年秋田市生まれ。69年、東京大学経済学部卒業後、東レ株式会社に入社。家庭では自閉症の長男と肝臓病とうつ病を患う妻を抱えながら会社の仕事でも大きな成果を出し、01年、東レの取締役、03年に東レ経営研究所社長に就任。内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授などの公職も歴任。「ワーク・ライフ・バランス」のシンボル的存在と言われている。
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