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「退職したい」は引き止める
■多くの人は「辞めなくてもいい理由」で辞めている
部下から「会社を辞めたい」と相談を受けたら、「辞めるべきではない」というスタンスで対応すべきです。「転職先が決まっている」という場合でも、辞めずに済む解決策を探ってみましょう。
当然ながら、まずは会社を辞めたい理由を尋ねます。そしてそれを解消できる方法はないか、考えてみます。
たとえば「仕事の内容」が不満なら、別の仕事や役割を与えてみる。別の部署がいいのであれば、希望の部署に掛け合ってみてもいいでしょう。
一方、「処遇」が不満なら、周囲や人事に働きかけ、処遇を改善するよう働きかけてみる。子育てや介護など家族の事情が理由なら、時短勤務や在宅勤務に変えるなど、働き方を変えるという手もあります。
中には「人間関係」の不満を訴える人もいるかもしれませんが、その場合は会社を変えても同じ問題に直面することを伝えます。仮に上司である自分に不満があるなら、納得のいくまで話し合うことを提案しましょう。互いに忙しく、話し合いが足らず、誤解していただけということもあるかもしれません。
このように当人の希望に沿うよう話し合っていくと、退職を見合わせることも少なくありません。私もこのようにして部下を何度か引き止めたことがありますが、半数が辞めずに会社に残ってくれました。
要するに、多くの人は「辞めなくてもいい理由」で辞めている。悶々と悩み不満をためてしまっているせいで、視野が狭くなり、ベストな判断ができなくなっているのです。
■ただし「辞められたら困る」「もう少しがんばれ」などはNG
ちなみに、引き止めて話し合いをする際は、「辞められたら困る」「もう少しがんばれ」などといった声がけは避けましょう。
「辞められたら困る」は会社の事情を押し付けているだけですし、退職を決断した部下に対して「もっとがんばれ」はあまりにも無神経な発言です。会社ではなく、あくまで当人の立場を中心に話し合うことが大切です。
なお、話し合いのための面談は一度で済ませず、複数回行い、当人の意思をしっかり確認しましょう。最初は意思が固くとも、何度か慰留されるうちに考えが変わり、翻意することもあるものです。
「転職しても通用するスキル」を身につけさせる
■一方、「前向きな転職」は応援してあげたい
退職を申し出る人の中には、「別の会社に行って力を試したい」「もっと腕を磨きたい」「身につけた力で起業してみたい」という場合もあります。
このような前向きな転職は、悪くありません。「今の会社に不満があるから」ではなく「もっと上を目指したい」ということなら、ぜひとも応援してあげたいものです。
その場合、転職でアピールできる、あるいは起業に役立つスキルがあるかどうか、当人と一緒に、キャリア・成果・実績・能力・性格など、一つひとつチェックし、棚卸し作業を手伝ってもいいでしょう。
仕事のスキルは、大きく二つに分けられます。業種や職種にかかわらず通用するポータブルスキルと、専門的な知識・技術です。なお、ポータブルスキルには次の4種類があります。
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①コミュニケーションスキル:相手の話を聞き、理解し、バージョンアップできる能力
②目標設定スキル:求められる期限内に要求された以上の成果を出す能力
③問題解決能力:起きた問題を分析し、素早く対応策を立て、解消に導く能力
④交渉力:お互いが納得する落とし所を見つける能力
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専門的な技術・知識とは、たとえば語学、デジタル技術、税理士・簿記・ファイナンシャルプランナーなどといった資格のこと。これら二つのスキルが十分であれば、ある程度どこに行っても通用するはずです。
■「転職しても通用するスキル」を磨くためにも、安易な転職は控えるべき
最近は転職も当たり前の時代になりましたが、私は「転職は慎重の上に慎重を期すべきだ」と考えています。簡単に辞めてしまっては、仕事の面白さ、自分を成長させることの楽しさを経験できないからです。
もちろん、心身を壊されるようなブラック企業は別ですが、そうでないなら、合うの合わないのと不満を言わず、一時腰を据えて全力を尽くすのも大事なことです。
そこを通過しなければ、仕事の何たるかは学べません。ろくな経験もスキルも得られず、未熟なまま転職を繰り返すということにもなりかねません。
たとえ好きな会社でも、途中で合わなくなるということもあります。そうなったとき、スキルがあれば躊躇なく辞められます。「転職しても通用するスキル」を磨くためにも、安易な転職は控えるべきではないでしょうか。
佐々木 常夫
株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ 代表取締役
1944年秋田市生まれ。69年、東京大学経済学部卒業後、東レ株式会社に入社。家庭では自閉症の長男と肝臓病とうつ病を患う妻を抱えながら会社の仕事でも大きな成果を出し、01年、東レの取締役、03年に東レ経営研究所社長に就任。内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授などの公職も歴任。「ワーク・ライフ・バランス」のシンボル的存在と言われている。
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