<関連記事>日本の「部下育成に悩む上司たち」が驚くほどできていない、人として当たり前の行動
新卒の部下を教育する
■「一から新人を育てるより、優秀な経験者を採用した方が手っ取り早い」?
新卒の部下を教育する場合は、「慌てず、焦らず、ゆっくり育てる」が基本です。
メンター制度などを有効に使い、1日も早く現場に溶け込むよう促すことが大事です。会社環境に馴染むという意味では、「鉄は熱いうちに打て」が一番です。
最近は「一から新人を育てるより、経験のある優秀な人材を採用したほうが手っ取り早い」という考え方の幹部も多いようですが、一概にそうとは言えません。新卒採用にはそれなりのメリットがあります。
たとえば、若い労働力の確保。企業が成長する上で、若くフレッシュな人材は欠かせません。新しい世代がもたらす風は、柔軟性や活力をもたらし、組織を活性化します。将来的に会社を支えて立つリーダー・幹部候補となる人材を育てるためにも、新人の採用・育成は必須です。
一方、デメリットもあります。育成にコストがかかること、ミスマッチが起きてしまう可能性もあることです。
採用時はよしと判断して雇ったものの、実際に働いてみたらどうも合わない、教育したものの期待したような戦力に至らない、あるいは戦力にならないうちに辞めてしまう…そんなミスマッチももちろん起こり得るでしょう。
しかし、こうしたデメリットを差し引いても、私は新人社員を積極的に育てていくべきだと思います。新人社員のほうが中途社員に比べて、なんといってもロイヤリティ(会社に対する忠誠心)が高いからです。
■「忠誠心」とは「会社の仲間とともに成長しようとする信頼関係」
新人の頃から会社の理念や価値観、上司の志を共有すれば、やはり「会社のために」という思いは強くなります。この思いの強さが仕事のモチベーションにつながり、当人の成長を促し、チームの活性化を大いに促すはずです。
もちろん忠誠心といっても、会社に服従させ、社畜化させることではありません。会社の仲間とともに成長しようとする信頼関係のことです。
近年は終身雇用制度もなくなりつつあり、新人がすぐに辞めてしまうことが増えましたが、みなさんのマネジメント力で、ゆくゆくはチームや会社を背負って立つ新人を育てていってほしいものです。
新卒採用は「スペック」より「人間性」重視で
■「会社は学校じゃない!」と叱る人もいるが…新卒採用で痛感した「学校教育の限界」
マネージャーは、新卒採用に関わることも少なくないでしょう。「就活生をどのように見たらよいか」ということにも触れておきましょう。
私も東レ時代、新卒採用に関わった経験があります。多くの就活生の履歴書に目を通し、面接官を務めたりしたこともあります。
そこで痛感したのは、学校教育の限界です。たいていの就活生は真面目で性格も悪くないのですが、どうも人間的に自立していない。有名大学であろうとそうでなかろうと、大して変わらないという印象を受けました。
本来学校は人を育てる場のはずですが、その機能を十分果たしているとはいえないのでしょう。いじめや不登校の原因となりかねない画一的教育や教員の多忙化など、問題が山積みで、とても人間性を育てるような余裕はないのかもしれません。
■会社には人間教育としての役割がある。「人間性」重視で育てがいのある人材を選ぶ
いずれにしろ、学校教育が十分でない以上、会社で教育するしかありません。未熟な新卒社員に向かって「会社は学校じゃない!」と叱りつける人もいるようですが、そんなことを言っていても部下は成長しませんし、チームに活力ももたらされません。
組織やチームに活力をもたらすためにも、「会社には人間教育としての役割がある」と心得ておきましょう。
その観点から言うと、新卒採用で見るべきはやはり「人間性」です。
苦境の中でも仲間と共にがんばれるか。自らの考え持ち、伝えていくことができるか。働き手として、人として、成長したいと思っているか。このような人間性を重視し、育てがいのある人材を採用するのがお勧めです。
出身校や成績といった「スペック」も無視できないのかもしれませんが、私はさほど気にしませんでした。スペックが高くても、人の言うことを素直に聞かない、自惚れて伸び代が感じられないようでは、育てがいがあるとはいえません。
一方、部活やサークルでリーダーを務めた経験のある人は、一目置いてもいいかもしれません。チームや組織をまとめた経験は、仕事にも活かせる可能性が高いからです。
また、チームワーク経験のある人は、「遅刻しない」「きちんと挨拶ができる」など礼儀正しい行動をとれる人も少なくないものです。履歴書チェックや面接時の参考にしてみてはいかがでしょうか。
佐々木 常夫
株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ 代表取締役
1944年秋田市生まれ。69年、東京大学経済学部卒業後、東レ株式会社に入社。家庭では自閉症の長男と肝臓病とうつ病を患う妻を抱えながら会社の仕事でも大きな成果を出し、01年、東レの取締役、03年に東レ経営研究所社長に就任。内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授などの公職も歴任。「ワーク・ライフ・バランス」のシンボル的存在と言われている。
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