上司も部下も「さん付け」で呼ぶ
みなさんは部下と話をするとき、相手をどう呼んでいますか?
女性なら「〇〇さん」、男性なら「〇〇君」、親しみを込めて「〇〇ちゃん」、あるいはニックネームで呼んでいる場合もあるかもしれませんね。
私のお勧めは、全員「さん付け」です。男性も女性も、部下も後輩も、です。
相手が年下の場合、「君付け」で呼んだり、呼び捨てにすることも多いと思いますが、私からすれば、呼び捨てはもってのほか。「君」が悪いとは言いませんが、やはり「さん」がベターです。上司が部下を「さん付け」で呼ぶことは、「リスペクトされている」「仕事仲間として対等に見てもらえている」という印象を与えることができるからです。
たとえば、「〇〇君、どう思う?」と尋ねられるのと、「〇〇さん、どう思う?」とを、比べてみてください。
前者がどこか「意見を言ってみなさい」と命令されているような印象を受けるのに対し、後者だと命令ではなく、対等の立場で意見を求められているように響きませんか?
対等に扱われていると思うと、部下は課題に対して主体的に考え、自分なりに答えを出そうとするものです。誰かだけを呼び捨てにしたり特別な呼び名で呼んだりせず、一律「さん付け」にすれば、みな平等に扱われているという一体感を持つこともできます。
「さん」か「君」かなどどうでもいいことに思えますが、部下にやる気を起こさせたいなら、呼び方一つにも注意を払いましょう。
ちなみに、私は上司も基本的に「さん付け」で呼んでいました。「上司も部下も対等だ」という意識でいたほうが、上司におもねることなく、一ビジネスマンとして緊張感を持って仕事ができると考えていたからです。
こうした呼び名に関しては、会社の風土もあるでしょう。軍隊のように上下を重んじ、部下は呼び捨てが当たり前というところもあるかもしれませんが、仕事の効率を考えるなら、「さん付け」で対等な意識を促すのが一番ではないでしょうか。
もっとも、昨日までは「〇〇君」「おーい、〇〇」と親しみを込めて呼んでいたものを、突然「〇〇さん」と呼んだら冷たい印象になります。「あれ? 怒ってる?」「急によそよそしくなったな」と感じさせてしまうこともあるかもしれません。そこはみなさんなりに、うまく工夫して取り入れていただきたいところです。
年下の部下こそリスペクトする
部下を「さん付け」で呼ぶことは、上司であるみなさん自身にも、対等の意識を促します。これは無用なプライドや上下意識を断つことにもつながります。
組織で働いていると、どうしても上下関係を気にしがちになります。「上司である自分のほうが偉い」という優越感が生まれ、部下の意見や考えに柔軟に耳を傾けることができなくなってしまうことも考えられます。
「自分が上、部下が下」「上司に意見するなんて生意気だ」などという上下意識やプライドは、百害あって一利なし。結果を出せるチームになるには、年齢や経験で判断せず、「むしろ年下こそリスペクトする」くらいの気持ちでいることが大事です。
考えてみてください。「若いからダメ」「経験がないからできない」とは必ずしも言えませんよね? 年下でも優れたアイディアを出せる人はいますし、経験がないからこそ新しい発想が生まれるという場合もたくさんありますよね?
前にもお話ししましたが、私が営業部で課長となり短期間で結果を出せたのは、未経験ゆえに部下に教えを乞うことができたからです。「部下であっても、その人が担当する分野については、自分ではかなわないアドバンテージがある」と考えていたからです。
年下でも敬意を払い、丁寧に、謙虚に対応する。それが正しい判断をもたらし、チーム全体の活力を上げていくのです。
近年日本企業の多くは、従来の年功序列型から、実力本位の人事制度へと舵を切りつつあります。年齢に関わりなく、能力で職責が決まる社会に、互いを尊重し合う関係性が求められる時代になりつつあるということです。
ナンシー・マイヤーズ監督の『マイ・インターン』という映画があります。
かつて管理職まで務めた70代の男性が、若い人ばかりが働くファッションサイトの会社に再就職し、40歳も年下の女性社長のもとで働くことになる。男性は経歴や経験をひけらかすこともせず、女性社長にひたすら謙虚に尽くし、若手社員からの相談にも真摯に向き合い、新たな職場でさまざまなことを学んでいく。はじめは親子ほども歳の離れた男性にイラついていた女性社長も、次第に心を開いていく…。
互いの関係を上下ではなく、尊敬の念を持って対等に向き合い働くことの大切さを教えてくれる、大変参考になる作品です。
佐々木 常夫
株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチ 代表取締役
1944年秋田市生まれ。69年、東京大学経済学部卒業後、東レ株式会社に入社。家庭では自閉症の長男と肝臓病とうつ病を患う妻を抱えながら会社の仕事でも大きな成果を出し、01年、東レの取締役、03年に東レ経営研究所社長に就任。内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授などの公職も歴任。「ワーク・ライフ・バランス」のシンボル的存在と言われている。
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