「遺言書」を作る際のポイント
1人に全財産を相続させる内容の遺言書を作成する際には、次の点に注意しましょう。
「公正証書遺言」とする
通常使用する遺言書の方式には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言が存在します。自筆証書遺言は手軽である一方で、書き損じなどにより無効となるリスクや、偽造されたり隠匿されたりするリスクが考えられます。
特に、1人の相続人に遺産を単独相続させたいなど偏った内容を記した遺言の場合には、ほかの相続人が遺言書を隠匿する可能性や、反対に遺言書で優遇されている相続人が偽造したのではないかとの疑義が生じる可能性があります。
そのため、1人の相続人に遺産を集中させる内容の遺言書は、「公正証書遺言」で作成したほうがよいでしょう。公正証書遺言とは、証人2名の立ち会いのもと、公証人が関与して作成する遺言書です。
「遺留分」について理解しておく
先に解説したとおり、一部の相続人には遺留分があります。遺留分を侵害した遺言書はトラブルの原因となる可能性があるため、まずは自分に遺留分のある相続人がいるかどうかを確認する必要があります。
遺留分のある相続人がいる場合には、本当に1人に遺産を単独相続させる遺言書を作成しても大丈夫か、慎重に検討するのがよいでしょう。
それでもなお、1人の相続人に遺産を集中させる遺言書を作りたい場合には、遺留分侵害額請求に備えた対策も検討しておきましょう。
検討すべき対策には、たとえば次のようなものが考えられます。
■遺留分侵害額請求への対策……1.支払い原資の確保
遺留分侵害額請求がなされたとしても、遺産の大半が預貯金などであれば大きな問題とはならないかもしれません。なぜなら、たとえ遺留分侵害額請求がなされても、受け取った遺産のなかから容易に支払いができるためです。
しかし、遺産の大半が不動産や自社株など換価の難しいものである場合には、「遺留分を支払おうにも支払うだけの金銭が用意できない」という事態になりかねません。
このことから、遺留分を侵害する遺言書を作成する場合には、あらかじめ遺留分額の試算を行い、遺留分侵害額請求に備えて支払い原資を確保しておく対策が必要です。たとえば、被保険者を被相続人、保険金受取人を遺言書で単独相続させたい長男とする生命保険契約を締結しておくことなどが考えられます。
このような対策をしておけば、仮に長男がほかの相続人から遺留分侵害額請求をされたとしても、受け取った生命保険金を原資として遺留分の支払いをすることが可能となります。
■遺留分侵害額請求への対策……2.生前の遺留分放棄
「生前の遺留分の放棄」という制度も存在します。これは、遺留分のある相続人が被相続人の存命中に自ら家庭裁判所に申し立て、遺留分を放棄する手続きです。
たとえば、長男と二男の2人が相続人であるにも関わらず遺言書で長男に遺産を単独相続させたい場合において、二男に生前の遺留分放棄をしてもらうことがありえます。
ただし、遺留分の放棄は、放棄する本人以外は申し立てられず、第三者が強制できるものでもありません。二男が遺留分放棄をするためには、二男が自らの意思で行う必要があり、遺言書を残す被相続人や遺産を多く受け取ることとなる長男が、二男の遺留分放棄を勝手に申し立てることはできないということです。
また、遺留分放棄を申し立てたからといって、必ずしも許可がされるわけではありません。家庭裁判所が遺留分放棄を許可するためには、次の要件をすべて満たす必要があるとされています。
・遺留分放棄が、本人の自由な意思によるものであること
・遺留分放棄に合理性と必要性があること
・放棄に見合うだけの見返りが存在すること
そのため、たとえ本人にその気があったとしても、合理性がない場合や見返りが不十分であると裁判所が判断すれば、許可を受けることはできません。
まとめ
「相続人の1人に全財産を相続させる」という遺言書を作成すること自体は可能です。しかし、不公平な内容の遺言書は、遺留分などさまざまなトラブルの原因となる可能性があります。
1人にすべての財産を相続させたいと考えている場合には、あらかじめ弁護士にご相談いただき、ケースに応じたリスクを把握するとともに、リスクへの対策を検討されることをおすすめします。
堅田 勇気
Authense法律事務所
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