「重心の傾き」が姿勢・歩行に悪影響を及ぼす!?
ここでは正しい姿勢、中でも「正しい立ち方」について考えていきます。「立つ」という姿勢で大切なことは「安定性」と「疲れにくさ」の2点です。逆にいうと、正しく立っていれば、どこにも負荷はかからず、安定さと疲れにくさの両方が得られるはずです。正しく立つために、大切なポイントは次の通りです。
① 「首固定」をする。
② 「肩甲骨を外に開く」ことを心がける。
③ 前に出ているあごを引き、丸まった胸椎を整える(猫背やストレートネックの改善に
つながる)。
④ 重心をかかとと母趾球(ぼしきゅう)に置くことを意識する。
特に④について、詳しくお話ししてみましょう。立つときに重心をどこに置くかというのは、非常に大きな問題です。本来は、重心が内くるぶしの下(足裏のかかと寄り)にくることが理想です。けれども近年、重心がつま先へと傾いている人が増えています。重心がつま先に移ると、「ハムストリングス」(太ももの裏にある筋肉)や内転筋など、足の裏側や内側の筋肉が使われにくくなります。
すると、姿勢は悪化し、歩行にも悪い影響が及ぶことになります。重心がつま先に傾く理由にはさまざまなことが考えられます。まず、背骨のカーブが大きくなっていることが挙げられます。また猫背の場合も、重心がつま先になりがちです。猫背であごが前に出ると、頭が前へつき出ることになり、重心がつま先へと傾いてしまうのです。
腰を反りすぎている場合も同様です。お腹が前につき出る姿勢になり、重心がつま先へと傾くことになります。普段は「重心」について考えることはなかなかないかもしれませんが、「つま先」ではなく、なるべく「内側」を意識してください。
難しい場合は、まずは両足の向きを真正面にすることから心がけるようにしましょう。がに股や内股になっていると、足と仙骨は連動しているため、仙骨の角度が変わってしまいます。さらに、膝も不自然な向きになるため、軟骨がすり減り、悪くなってしまいます。足先の方向を整えるだけでも、仙骨の位置を正すことができるのです。
さらに、「気功」の思想では「立ち方」を重要視しています。気功にはさまざまな流派や、鍛錬の種類があります。中でもよく知られている気功のひとつに「站椿功(たんとうこう)」という気功があります。これは、「ひたすら立つ」という気功の種類です。「正
しく立つ」というだけで鍛錬になるのですから、「立つ」ことがいかに大事な姿勢であるか、おわかりいただけることでしょう。
[図表1] 正しい立ち方
正しく立つための「站椿功」の基本動作
「站椿功」の「站」とは「立つ」、「椿」とは「杭」を表しています。つまり「地面に打ち込まれた杭のように立ち続ける鍛錬」という意味になります。武術関係では「立禅」とも呼ばれ、基本の修行方法とされています。「站椿功」の基本的な行い方は、次の通りです。
【「站椿功」の行い方】
① 肩幅を基準にして、自然に楽な歩幅で立つ。膝と腰をゆるめ、背骨を伸ばす。膝をゆ
るめたとき、お尻を後ろにつき出す姿勢(出っ尻)にならないよう気をつける。「高い
椅子に腰かけること」をイメージしながら、腰を少し落とします。
② 大きな気のボールを両手で抱きかかえるように連想します。(見えないゴム風船や大きな木を抱くような気持ちで)。あごを引いて、頭は空から引っ張られるようイメージする(「自分は、ハンガーにかけたられた洋服だ」と想像します)。
③腕や肩の力を抜く。気のボールに手をのせるよう、また脇の下に卵を挟むようイメージする。手首や指の間もゆるめます。
※ 最初は膝が震えたり、姿勢を長く保つのが難しいですが慣れると、下半身が安定します。
④ 収功を行います。(気功が終わったとき、日常の意識に戻るために行う動作のこと)。手の動きとともに、気のボールがだんだん小さくなるようにイメージし、最後は両手を重ねて丹田(下腹部)におさめます。
初心者は、まず「5分間立つ」ことを目標にして、少しずつ時間を長くしていきましょう(30分間立つことができるようになると、相当な鍛錬になります)。立ち終わると、爽快感があり、気力がみなぎります。ただし、無理に立ち続けることはやめましょう。気分が悪くなったりしたら、すぐに中止してください。
「站椿功」の行い方については詳しく述べましたが、基本をひとことでいうと「頭のてっぺんを天から糸でつられたようにして(これで中心軸ができます)、腰幅で膝をゆるめて立つ」ということです。もちろん、この立ち方をすぐにマスターしようとあせることはありません。
長年の学校教育の中で「気をつけ」の姿勢になじみ親しんできた人にとっては、難しく感じられても当然でしょう。少しずつでよいので、正しい立ち方を身につけていきましょう。
[図表2] 站椿功(たんとうこう)の方法