なぜ「肩」を鍛える必要性があるのか?
姿勢を正していく際に、非常に重要な肩について考えていきます。肩は、人間に特徴的な働きである手の動きに、大きな影響を与える部位です。肩がしっかりとしていないと、手をうまく動かすことはできません。
人間など猿の仲間は、手をうまく使うことで知られています。それはつまり、他の動物よりも腕の可動域が広いということです。
たとえば人間は、手を使って細かい作業をしたり、重い荷物を運んだり、腕を自由に回す体操やスポーツをすることができます。猿も、人間同様に手を使って果物の皮をむくなど細かい作業をしたり、木に登ったり、枝にぶらさがったり、コントロールよくものを投げたりすることができます。
これらは当たり前のことのように思えるかもしれませんが、実は「肩関節と肩甲骨の仕組みが優れている」ことの大きな証拠です。しかしながら「腕が自由に動く」(可動域が広い)ということは、「強度が弱い」ということにもつながります。からだの構造の原則として、「可動域が広い」ということは弱さにつながり、「可動域が狭い」ということは強さにつながるからです。
そのため、肩に負荷をかけすぎるとすぐにトラブルが起きることになります。たとえば、腕を誤った方法で使うと、肩関節が外れる(脱臼する)ことも起こり得ます。そうならないために、肩をしっかりと鍛えていく必要があるのです。肩は意識次第で鍛えることができます。まずは「肩甲骨を外に開く」ことからはじめていきましょう。
肩を前に出しつつ、下へ下ろすと「肩甲骨を外に開く」ことになります。肩甲骨を外に開くと、からだ全体に安定感が出てきます。また首や肩のこりも解消されます。ほんの少し意識をして肩を動かすだけで大きな効果が得られるので、うまくコツをつかんでください。次に、肩甲骨を外に開くコツを挙げます。
誰でもすぐに実践可能――「肩甲骨を外に開く」コツ
【肩甲骨を、うまく外に開くコツ】
①「首固定」も同時に行う
「肩甲骨を外に開く」ときは、「首固定」も同時に行います。この2つを同時に意識する
だけでも、首はより強く支えられ、肩は一層強く「下に下りる」という感覚になります。
このとき、胸は張った状態になり、自然に大きく開きます。すると、上半身(首から背中
の背骨)が、1本の軸として通ったような感覚が得られます。
② 腰も同時に意識する
「肩甲骨を外に開く」ときは、肩甲骨を骨盤に向けて下ろすようなイメージで行います。また腰が反りやすくなるので、腰が反らないように注意をしましょう。むしろ、腰が膨らむように意識するとよいでしょう。
③ 両方の肩を同時に使う
「肩甲骨を外に開く」ときは、左右の両肩を同時にうまく使います。左右同時に肩を動かすことで、からだがゆがんだり、ねじれたりすることを防げるのです。「両方の肩と、両方の股関節を結んだ四角形が面になった」と実感できれば、理想的です。
「肩甲骨を外に開く」状態を、実感できる場面のひとつ目は、書道などで字を書くときです。毛筆で字を書くときは、「手首で書くのではなく肘で書く」とよくいわれます。「肘で書く」と意識をするとうまくいきにくいものですが「肩甲骨を外に開く」ことを意識すると、力まず、筆運びがスムースにできます。
2つ目は、あぐらをかくときです。あぐらをかきながら「肩甲骨を外に開く」ことをイメージすると、からだに軸ができて、座ることが楽になります。また坐禅の世界では、「肩甲骨を外に開く」ことができている場合、眠たくなったときは「前に傾く」のではなく、「後ろにひっくり返る」のが正しいと指導する専門家もいるようです。
ユニークなたとえですが、非常にわかりやすい説明ではないでしょうか。また、よい肩のお手本として、機会があれば見てほしいスタイルがあります。社交ダンスの選手(ダンサー)の姿勢です。優れた選手であればあるほど、「肩甲骨を外に開く」「首固定も同時に行う」ということができています。
からだの軸が垂直に通っていて、首が長く感じられるはずです。肩甲骨を外に開くことでからだに安定が生まれ、激しく動くこともスムースに行えるようになるのでしょう。ダンサーの美しさの秘密は肩甲骨にあり、ともいえます。
「肩甲骨を外に開くこと」は誰でもすぐに真似できる動きなので、気軽に試してみてください。
[図表1] 肩甲骨を外に開くには