「隙間」が点在している人間のからだ
呼吸は「瞑想」とも深く関係をしています。ここでは瞑想と関わりの深い「丹田呼吸」について、特に見ていきましょう。丹田とは一般的に「へその下5㎝に位置するもの」とされています。しかしながら丹田の場所を触ろうとしたり、正しく見つけようとする必要はありません。それよりも「丹田という重要な箇所が、お腹にある」「丹田のことをときどき思い出そう」と意識をすることが大切です。
なぜ丹田が大切なのでしょうか。たとえば中国医学では昔から丹田に非常に注目をしてきました。丹田という言葉のもともとの意味は「丹薬(不老不死の薬)を栽培する田畑」ということになります。とはいっても、丹田に何かがあるわけではありません。むしろ、丹田とは「何もない」部位、つまり「隙間」のひとつなのです。
そもそも、人間のからだには「隙間」が点在しています。「人間のからだをよく見ると、隙間だらけである」という見方もあるほどです。もちろん体内に、さまざまな臓器がつまっていることは事実です。しかしながら、肺と心臓の間、肋膜と肺の間、横隔膜と肝臓の間、肝臓と胃袋の間などに隙間は存在しています。これらの空間には空気も流れ込んでいません。
たとえば外科手術などで開腹をすると、隙間に空気が入ることになります。中国医学では、この隙間を重要視してきました。そして隙間には「気」があると考え、重要な「生命場」としてとらえてきました。丹田という隙間も、生命場のひとつとして、古来、中国人によって大切なものとして考えられてきたのです。
また、生命場はストレスと深く関わっており、「ストレスが強いと自然治癒力が低下し、生命力の場が乱れる」とされています。その乱れを正すための手段として有効なのが呼吸なのです。丹田呼吸の行い方を具体的にご紹介します。
【丹田呼吸の行い方】
①あぐらか正座の姿勢で座り、肩の力を抜き、背筋を軽く伸ばします。
②鼻呼吸をし、自然な呼吸でこころを落ち着かせましょう。
③腹式呼吸を意識して行います。鼻から息を吐くときにお腹をへこませ、吸うときにお
腹を膨らませます。
④丹田(おへその下5㎝)に両手を軽く置きます。
⑤息を吐きながらお腹をへこませるとき、両手を当てた丹田に意識を向け、丹田を腰側
へ引っ込むようにします。
⑥息を吐き切ったら、力を抜いて息を吸います。
⑥⑤~⑥をゆっくり繰り返してください。
電車の中や仕事中にも取り入れられる「丹田呼吸」
時間は5分以上行うと効果的です。毎日少しずつでも継続して行えるようになればベターです。丹田呼吸を行うことで、潜在意識(無意識)に徐々に働きかけることもできます。潜在意識に働きかけることで、今まで見逃していたことに気づいたり、物事の見え方や考え方などが変化するなどの長所があります。さらに上級者になると、α波が出るようになるともいわれます。
できれば、いつもの呼吸を丹田呼吸に切り替えられれば理想的です。からだがポカポカと温かくなり充実感と生命力を感じられるようになります。「私は生きている」という実感も得られるようになります。暮らしの中で積極的に練習をし、取り入れてほしいと思います。
たとえば電車の中などは、丹田呼吸法の絶好の場です。また、デスクワークなどの仕事をしている間も、仕事と両立できることですから、試してみてください。疲労感も少なくなり、人生が変わってきます。「肩こりを感じれば、丹田呼吸」「疲れたら、丹田呼吸」というように、何か症状があれば、丹田呼吸を行うようにしましょう。
また、悲しさや苦しさ、不安や不満、恨みや絶望感などの気持ちになったときにも、丹田呼吸を行ってみてください。呼吸で「疲れを感じる」ということはなかなかありませんが、「疲れるほど丹田呼吸を繰り返す」という方法もあります。気づいたときには悲しさやつらさから抜け出せていることでしょう。
丹田呼吸はスポーツと同じです。練習とともにだんだん上達してきます。最初の頃は「うまく丹田呼吸ができているのかどうかわからない」という人もいますが、できているかどうかは簡単に判断できます。からだが温かくなったらきいています。温かくなったらうまくいっている、温かくならなかったら丹田呼吸になっていないと判断してください。
丹田呼吸を正しく行うと、からだが温かくなるとともに、気持ちよくなるため、不眠対策としても非常に優れた方法です。数日、数週間、数カ月と続ければ、その効果の大きいことに驚かれることでしょう。