【インフレ高止まりと景気後退リスク】
インフレの速やかな低下に景気後退は不可避の可能性
新型コロナ流行以降のインフレに関する最近の研究はFOMC参加者が予想するインフレ低下を実現するためには、大幅な失業率の上昇を伴う深刻な景気後退は不可避との分析が示されている。
クリーブランド連銀のVerbrugge氏とZaman氏が23年1月に発表した新型コロナ後のインフレ動態に関する論文(”Post-COVID Inflation Dynamics: Higher for Longer”6)で、非線形フィリップス曲線を組み込んだ非線形モデルを用いて、コアインフレ率をコア財、住居費、コアサービス(除く住居費)の3つの要素を使ってコアPCEインフレ率をモデル化した。また、同モデルを用いて22年12月に示されたFOMC参加者の経済見通し(SEP)のコアインフレ率と失業率の妥当性について検証している。
同論文ではSEPで示された失業率の経路(23年末に4.6%まで上昇)では25年末のコアPCEインフレ率がSEPの2.1%を大幅に上回る2.75%までしか低下しない可能性を示した。また、01年にみられたマイルドな景気後退と同様の前提でも25年末に2.4%に留まるとしており、SEP通りのインフレ率を実現するためには失業率を7.4%まで引上げる必要があり、深刻な景気後退は不可避との結論を導いている。
同様の分析はジョンズホプキンス大学のBall氏やIMFのLeigh氏、Mishra氏の新型コロナ時代の米国インフレに関する論文(”Understanding U.S. Inflation During COVID Era”7)が試算した2%の物価目標の達成には2年間で失業率を7.5%まで上昇させる必要があるとの結論に近い結果となっている。いずれの論文もコロナ禍で大幅に上昇したインフレが高止まりする可能性を指摘しており、失業率の大幅な上昇を伴わずにインフレ率が速やかに低下する可能性が低いと結論づけている。
金融市場ではインフレの低下基調が持続する中、足元で雇用や個人消費、非製造業の景況感指数など23年入り後も堅調な経済指標の発表が相次いでいることから、堅調な経済状況を維持したまま、インフレ率の低下が持続するとの見方「ノーランディングシナリオ」が示されている。しかしながら、上記の分析等にみられるように労働市場をはじめ経済状況が堅調を維持し続ける中でFOMC参加者が予想するペースでのインフレ低下が実現する可能性は低いだろう。
*6:Post-COVID Inflation Dynamics: Higher for Longer (clevelandfed.org)
*7https://www.imf.org/en/Publications/WP/Issues/2022/10/28/Understanding-U-S-525200
3.まとめ
CPIの各構成要素からみた今後のインフレ見通しは、エネルギー・食料品価格では物価上昇圧力が22年から緩和が見込まれるものの、高止まりする可能性がある一方、コア財価格については低下基調が持続することが見込まれる。また、コアサービス価格のうち、ウエイトの大きい住居費については23年早期にピークアウトし、低下基調に転じる可能性が高い。このため、CPIは23年も低下基調の持続が見込まれる。もっとも、住居費以外のコアサービス価格については労働需給が緩和する兆しがみられておらず、労働需給の逼迫が長期化すれば、インフレが高止まりする可能性があり、インフレの低下スピードが緩慢になる可能性も残っている。
いずれにせよ、足元の堅調な経済状況を維持したまま、インフレが順調に低下する「ノーランディングシナリオ」が実現する可能性は低いだろう。
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