ウクライナ侵攻開始から1年…加速し複雑化する供給網再編を巡る動き (写真はイメージです/PIXTA)

ウクライナへの軍事侵攻から1年。世界経済は減速し、グローバルな供給網の再編圧力は強まっています。ニッセイ基礎研究所の伊藤さゆり氏によるレポートです。

ウクライナ侵攻で加速した世界の変化

22年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻を開始してから1年が経過した。

 

この間、西側は、ロシアへの制裁強化とウクライナ支援強化によって向き合ってきた。

 

ウクライナ侵攻は、西側、特に欧州とロシアの関係は、経済的に相互に依存する関係から、西側が金融や技術を「制裁手段化」し、ロシアがエネルギーや食料を「武器化」して対抗する関係へと変わった。

 

世界的な低インフレ、低金利局面は唐突に終わりを告げた。食料や肥料、エネルギーの供給の不安定化、価格の高騰、主要中銀による急ピッチの利上げを通じて世界に広がった(図表)。

 

世界経済は減速した。22年の実質GDPは侵攻されたウクライナが30.3%減、侵攻したロシアが同2.1%減*1とマイナス成長に転じた。米国は同2.2%、ユーロ圏は同3.5%だったが、米国では利上げによる民間需要の低下が鮮明になっている。欧州は手厚いエネルギー危機対策と暖冬の恩恵で、10~12月期のマイナス成長転落を辛うじて免れた。新興国・途上国、いわゆるグローバルサウスの殆どの国は戦争や制裁に直接関わっていないが、世界的なインフレ、金融環境の急激な変化からの圧力を受けている。とりわけ食料やエネルギーを輸入に頼り、資本流入を必要とする国々の状況は厳しさを増している。

 

【図表】
【図表】

 

*1:国連総会緊急特別会合「ロシア軍に撤収を求める決議」23年2月23日。決議に反対した7カ国はロシア、ベラルーシ、エリトリア、シリア、マリ、ニカラグア、北朝鮮。

グローバルな供給網の再編圧力は強まっているが、単純な二分化ではない

1980年代以降、非西側も巻き込む形で広がったグローバルな供給網の再編圧力は強まっている。分断を深める要因となっているのは、西側とロシアの制裁・対抗措置ばかりではない。侵攻以前から始まっていた経済安全保障強化、環境・人権など持続可能な成長のための規制強化も分断の圧力となる。

 

しかしながら、グローバルな供給網が、「西側の民主主義国家による価値の同盟」と「中ロの権威主義国家」に二分化されるとは思えない。数の上では、2つのブロックのどちらか一方に属する国の方がむしろ少数である。2月23日の国連総会の「ロシア軍の撤収を求める決議」も賛成141、反対7、棄権32と侵攻直後の22年3月2日の決議と同じ圧倒的多数で採択されたことが示すように*1、ロシアの軍事行動を問題視する国は多い。しかし、中国のほか、インドも棄権、決議に賛成した新興国・途上国でも、西側の制裁の影響を懸念し、ウクライナの特別扱いを「二重基準」と見る国は少なくない。

 

中ロは、ともに権威主義国家であり、西側主導の国際秩序に不満を抱いているが、一枚岩ではない。侵攻直前の首脳会談の共同声明で「無制限の友好と協力」を約束したとは言え、中ロは、侵攻後のロシアへの積極的な支援は控えてきた。ウクライナ侵攻から1年を機に中国外務省が公表した文書*2でも、西側の姿勢を批判し、ロシアの主張に寄り添いつつも、原子力発電所の安全性や核兵器の使用に懸念を示すなど、中立姿勢をアピールしてもいる。但し、米国の高官らが警鐘を鳴らすように*3、中国がロシアへの武器供与へと踏み切れば、中ロの距離は近く、西側と中国との距離は開くことになる。

 

*2:中国外務省「ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場(23年2月24日)」では、「すべての当事者は火に油を注いだり、緊張を高めたりすべきではない」として西側のウクライナへの軍事支援を暗に批判、「一方的な制裁」にも反対の立場を示した。他地域の安全保障を犠牲とする「軍事ブロックの強化・拡大」では平和は実現できないとしてロシアの主張に理解を示している。

*3:中国のロシアへの武器供与を巡る報道や高官発言については、高濱賛「中国は対戦車ミサイルや榴弾砲をロシアに供与するか、米専門家の見方」JBpress 23年2月23日に詳述されている。

 

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    ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究理事

    ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2019年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学大学院商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員

    著者紹介

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    ※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    ※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年2月28日に公開したレポートを転載したものです。

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