「ブースト・インカム」としてのBIの給付水準
株式会社リクルートエージェントの海老原嗣生によると、公的年金はあくまでも高齢世帯の生活の下支えであり生計費全体を賄うことができないが、就労や資産取り崩しを加えて生計を成り立たせる、という性格を持っている。
海老原は、このことを「ブースト機能(生活を底上げするという意味)」と表現している(『年金不安の正体』海老原嗣生 筑摩書房 2019年)。「ブースト(boost)」とは、「引き上げる」「押し上げる」といった意味である。
BIの給付水準についても、ブースト機能を果たすものとして位置づけておけば、合意形成もしやすくなるのではないか。「ベーシックインカム」というより、むしろ「ブースト・インカム」という性質に着目して制度設計をするほうが、「まったく働かなくても生活ができるだけの給付がなされなければ意味がない」といった誤解からも解放されるだろう。
この後、給付水準を試算するが、実際にその金額まで届かなくても、生活をブーストする意義は大きい。
たとえば、みずほフィナンシャルグループが導入している「週休3日制」、「週休4日制」は、給与はそれぞれ約8割、約6割であり、必ずしも待遇の改善とはいえないが、BIによるブースト機能が組み合わされば、有意義なワークシェアリングにすることができるかもしれない。
ブースト機能という考え方を突き詰めると、給与を「固定部分」と「変動部分」に分け、「固定部分」に相当するBIを給付するという考え方もあり得る。つまり最低賃金で所定労働時間の労働をした場合に得られるだろう金額である。
たとえば、最低賃金が時給1000円、年間の所定労働時間が240日×8時間=1920時間とすると、年間192万円をBIとして給付するのである。これが、BIとしての理想形の上限になるのではないか。
とはいうものの、人口を1億人とすると、総額192兆円の予算が必要になる。日本の国家予算は約100兆円であるから、これを支給するには労働生産性と資源生産性がよほど大きく向上する必要があるだろう。
したがって、ここでは、「当面の」給付水準について検討したい。