契約内容がとんでもないことに
その人いわく、「『フリーランス』って光って見えました。『フリー』なので、もっと時間がとれるんじゃないかと」。当初は確かに、サラリーマン時代より早く帰宅できていた。大きな転職動機だった、子どもと過ごす時間を増やすことも実現した。
ところが、会社側からの契約内容の変更要請に応じたところから、とんでもないことになった。
当初の契約では、月々の報酬は、荷物1個当たりの単価に、運んだ荷物数を掛ける方式で定められていた。それに対して変更後の契約では、報酬が、1日単位の固定額に変わった。そして、割り当てられる配送荷物の個数が激増したのである。
こうなれば、何が起こるかは自明だ。日給を確保するためには、いくら時間がかかっても、当日の割り当て荷物数をこなさなければならない。フリーランスだから、働く時間に制約はない。もちろん、残業代も出ない。
子どもと過ごす時間を増やすために転職したのに、一緒に住んでいることを忘れるくらいに疎遠になってしまった。家族が過労死を心配する事態になった。
会社側に抗議をすると…
「会社側に抗議は?」という取材者の質問に対して、この哀しき「自由な槍」は、そんなことをしたら、「変な配送エリア」に回されたり、出勤日数を減らされたりしてしまうのだと答えた。
こんなことなら、再転職を考えるべきだ。そう言いたくなる。だが、哀しき「自由な槍」は実感している。いったんフリーランスになると、働き方を変えることは難しいのである。
なぜなら、雇用されている労働者ではないので、原則として失業保険給付が受けられない。だから、今の仕事を辞めてしまえば、転職のための就活中の生活が立ち行かないのである。
やっぱり、こういうことなのである。内閣官房調査の結果について私が推察した通り、フリーランサーたちがフリーランサーであり続けることを希望するのは、それを辞めるに辞められないからだった。
浜 矩子
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
エコノミスト