「将来から目を背けたい」…悲痛な若者たちの声から「大人たちの悲鳴」が聞こえる理由

「将来から目を背けたい」…悲痛な若者たちの声から「大人たちの悲鳴」が聞こえる理由
(※写真はイメージです/PIXTA)

グローバル化により、貧しい人間と富める人間の差が顕著になった時代、21世紀。これからいったい、どのように働いていくべきなのか、人生にどれほどのお金が必要なのか。浜矩子氏の著書『人が働くのはお金のためか』(青春出版社)より、本稿では、ある一冊の本に寄せられた若者の多くが抱える「将来への不安」について書かれた箇所を一部抜粋して紹介します。

振り切りたいが振り切れない、「やりがい詐欺」への同調圧力

『なぜ僕らは働くのか 君が幸せになるために考えてほしい大切なこと』(佳奈著/池上彰監修、2020年)に目を向けておきたい。この著作については毀誉褒貶が実に著しく、レビューも実に多数の読者が投稿している。

 

「様々な不安を抱えた、迷える今日の若者たちに是非読んで欲しい」。こういう趣旨のレビューが多々ある。

 

その一方で、こんなものは「おかしな宗教本」だという意見があり、この本を若者たちに読ませてはいけない、読ませたくない、という論評も数多い。

 

後者のネガティブレビュアーたちは、この著書の中にやりがい詐欺の色調を見出している。筆者は、どちらかといえばネガティブレビュアーたちの見解に賛同する。だが、それはそれとして、ここで取り上げたいのは、この著書への賛否問題それ自体ではない。

 

この著書に対しては、若者たちからの多数の読後感想がネット上にアップされていた。出版社が用意したものかと思われる。その内容にかなり愕然とした。例えば、次のようなものがあった。

 

〈「大丈夫。つまずいたら立ち上がればいい。」というセリフが印象に残りました。読み終わった後、何かを話すと大切なことが抜けていく気がして、口を開けませんでした(13歳中学生)〉

 

〈「働く」や「将来」から目を背けて逃げていたけど、この本を読んで向き合いたいと思いました。周りの子たちは将来の夢を見つけていて、それに遅れているのが悔しいと思っていました。この本のおかげで、あせらずゆっくりでいいんだと気づくことができました(15歳高校生)〉

 

〈自分の将来が不安でしたが、この本を読んで気持ちがすこしスッキリしました。これからの人生、悔いのないように過ごしていきたいです(17歳高校生)〉

 

〈自分の将来の探り方、それに勇気や努力の必要性をこの本が教えてくれました。自分に少し自信が持てて、この本を読む以前より未来が明るく見えた気がしました(16歳高校生)〉

 

〈自分には可能性があることをこの本が教えてくれて、とても前向きになれました(12歳小学生)〉

 

〈仕事を始めてからも夢は見つかる、という内容が印象に残った(18歳高校生)〉

 

今の若者たち、子どもたちは、何と悩んでいることか。何と苦しんでいることか。何と不安で一杯であることか。そう思えてしまって辛くなった。胸が痛んだ。

 

若者が悩むことが一義的に悪いことだとは言わない。悩むことは知性の高まりにつながる。だが、ここで思いを語っている若者たちは、いかにも追い詰められている。強迫観念に駆られている。いかにも息苦しそうだ。救いを求めて、心の中で悲鳴を上げている。彼らの悲鳴は、すなわち、彼らの身近にいる大人たちの悲鳴だ。

 

働くこととの関わりで、大人たちが取りつかれている迷いや不安や自信喪失、いたたまれないような承認欲求、振り切りたいが振り切れない「やりがい詐欺」への同調圧力。

 

これらのことがのしかかり、押しつぶされそうになっている大人たち。彼らの苦しさが、「なぜ僕らは〜」本に対する若者たちの感想の中から染み出している。

 

このままでは21世紀の労働者たちは、“21世紀の資本がつくり出した”21世紀の労働の有り方にからめ捕られて、窒息死してしまう。それを回避するにはどうするか。解決すべき問題はこれだ。このことを改めて確認したところで、次のテーマに踏み込んでいきたいと思う。

 

 

浜 矩子

同志社大学大学院ビジネス研究科教授
エコノミスト

※本連載は、浜矩子氏の著書『人が働くのはお金のためか』(青春出版社)から一部を抜粋し、再構成したものです。

人が働くのはお金のためか

人が働くのはお金のためか

浜 矩子

青春新書インテリジェンス

富裕層の不労所得が増大と集中をする一方で、経済格差は広がり、「使い捨て型」雇用は増え、働く人々に貧困が忍び寄る。グローバル化の進展とともに富の偏在は進み、「21世紀の資本」は凄まじい規模と速度で国境を越え、広がっ…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録