チームアホノミクスのフリーランス絶賛論
2016年10月20日、世耕弘成経済産業大臣(当時)の次の発言がネット配信された。
〈「安倍内閣にとって「働き方改革」は最大のチャレンジであり、「兼業・副業」や「フリーランサー」のような、「時間・場所・契約にとらわれない、柔軟な働き方」は、働き方改革の「鍵」となると思っています。日本経済が今後もしっかりと成長していくためには、従来の日本型雇用システム一本やりではなく、兼業、副業、フリーランサーのような、働き手一人ひとりの能力を柔軟な働き方で引き出していくということが重要かなと思います〉
これに先立って、同年9月には「働き方改革実現会議」が発足していた。世耕発言のほぼ一か月後には、経産省内に「雇用関係によらない働き方研究会」が設けられた。いずれ、チームアホノミクスの誰かがこの種のことを言い出すに違いない。きっと、こういう動きが出てくるに違いない。当時の筆者はそう考えていた。
それがあまりにも図星だったので、かなりビックリした記憶が蘇る。一つの会社に「生涯就社」するのはもう古い。雇用されない働き方が、最も今的だ。
皆さん、どんどんフリーランスになりましょう。一億総フリーランス時代がやって来ますよ。そうなればなるほど、皆さん、才能を生かしながら伸び伸びと仕事をすることができるようになりますよ。経産省や厚労省による、大々的なフリーランス化の勧めが始まった。
「働き方改革」ではなく、「働かせ方改革」だ
ここでご注意頂きたいのが、前出の世耕発言の後段部分だ。再掲しよう。
〈日本経済が今後もしっかりと成長していくためには、従来の日本型雇用システム一本やりではなく、兼業、副業、フリーランサーのような、働き手一人ひとりの能力を柔軟な働き方で引き出していくということが重要かなと思います〉
この一文の中に、チームアホノミクスが言う「働き方改革」が、いかに「働かせ方改革」であって、その狙いがどこにあるのかが集約的に表れている。狙いは冒頭に明記されている。それは、「日本経済が今後もしっかりと成長していくために」だ。
そのために、「働き手一人ひとりの能力を柔軟な働き方で引き出していくということが重要」なのだと言っている。
経済成長力を保持していくために、人々を柔軟な働き方で働かせる。そうすることで、「働き手一人ひとりの能力」を引き出していくのだという。
この論法のどこに、人々のために、より良き働き方を実現しようという気構えがあるのか。どこに、人と幸せをつなぎとめる蝶番としての労働の有り方に関する問いかけがあるのか。
聞くだけ野暮だ。彼らの構想のどこにも、このような感性は見当たらない。
さらに言えば、「働き手一人ひとりの能力を柔軟な働き方で引き出していく」という言い方には、どこか、前章で見た就労動機としての「自己実現」「承認欲求」「社会貢献」の三点セットに結びついていくものを感じる。
「やりがい詐欺」につながっていく筋道を感知してしまうものがある。ここに、21世紀の資本が求める労働像と、アホノミクスの大将が掲げた「世界で一番、企業が活躍しやすい国を目指します」宣言との間に、不気味にして完璧な一致度を示唆するものを見出してしまう。
浜 矩子
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
エコノミスト