日本で最もフリーランスが多いのは「60代」 。いったいなぜなのか?その“意外なワケ”【エコノミストが解説】

日本で最もフリーランスが多いのは「60代」 。いったいなぜなのか?その“意外なワケ”【エコノミストが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

貧しい人間と富める人間の差が顕著になった時代。これからどのように働いていくべきなのか、人生にどれほどのお金が必要なのか。今回は政府が推進する「フリーランス」という働き方について、実際のデータをもとに書かれた箇所を、浜矩子氏の著書『人が働くのはお金のためか』(青春出版社)から、一部抜粋して紹介します。

日本の「自由な槍」は老兵が多い

2020年5月に「フリーランス実態調査結果」という報告書が発表された。

 

調査主体は、「内閣官房日本経済再生総合事務局」(以下、内閣官房)という、いささか背筋がぞわっとするような不気味な名前の組織だ。このような名称の組織の調査結果をどこまで信用していいか。そこに疑念を持ってしまう。

 

だが、だからこそ、これを分析対象としないわけにはいかないだろう。まずは敵情視察。この感覚で、一通り内閣官房調査の内容を見ておく。

 

その上で、他の情報ソースにも当たることにする。内閣官房の試算によれば、調査時点(2020年2月~3月)での日本のフリーランス型就労者の数は、462万人だった。他にも、日本のフリーランス就労者数に関する試算は各種ある。

 

そして、フリーランスをどう定義しているかによって、数値にはかなり幅がある。ただ、それでも概ね、300万人強から500万人弱という範囲に収まっている。

 

そこでひとまず、内閣官房の数字を採用すれば、就労人口全体(2020年は6,670万人強)に占めるその割合は、「約7%」である。なかなか高い数値だ。現時点では、500万人に達しているという民間の調査結果もあるようだ。

 

チームアホノミクスの「フリーランス化の勧め」は、かなりの効力を発揮してきた感がある。さて、そこで内閣官房調査の結果である。この調査は、どんな日本フリーランサー物語を語っているのか。

若い世代の方が、新しいもの、「自分らしさ」を求めるのではないのか?

語り出しは調査対象者たちの基本属性である。具体的には年齢構成だ。基本属性が年齢構成だけというのは、少々違和感がある。性別などもあってよさそうだ。もっとも、今日の社会では、性別を決めつけるのは避けるべきことなのかもしれない。

 

ひとまず、その観点からの配慮だと思っておくことにしよう。敵情視察もあまり懐疑的になり過ぎてはいけない。それはともかく、内閣官房調査が対象としたフリーランサーたちの年齢構成は、次のようになっていた。

 
〈フリーランスの年齢構成〉
29歳以下:11%
30歳以上40歳未満:17%
40歳以上50歳未満:22%
50歳以上60歳未満:20%
60歳以上:30%

 

さて、この構図をどう読み解くか。日本の働く人々にとって、フリーランスは新しい働き方だ。だからこそ、チームアホノミクスが必死で、その大プロモーション・キャンペーンを張ったわけである。

 

新しいものは若者世代に受ける。直観的にはそう思われる。就活サポーターたちに誘導されて、自己実現や承認欲求が満たされる職場を探し求める若者たちは、「自分らしさ」をいかんなく発揮できる「自由な槍」としての生き方を好みそうなものである。

 

現に、ミレニアル世代(概ね1980年代~1990年代前半生まれ)とか、Z世代(概ね1990年代後半~2010年代前半生まれ)と呼ばれる世代の若者層は、「バウンダリーレス」あるいは「プロティアン」なキャリア形成志向が強いとしばしば言われる。

 

バウンダリーレスとは、「境界がない」の意だ。一つの会社という境界の中にとどまることなく、次々と新たな環境の中に身を置いて能力を蓄え、磨き、発揮する。それがバウンダリーレスな働き方だ。

 

プロティアンは、「プロテウス的」だということである。プロテウスはギリシャ神話の中に登場するいたずら好きの神様だ。神様というよりは小鬼というイメージだ。プロテウスは変幻自在。コロコロと姿形を変えて人々を翻弄する。特定の枠組みに我が身を合わせるのではなく、奔放に働きたい場所で働きたいように働く。それがプロティアン・キャリアの追求者たちだ。

 

このように境界を振り捨て、華麗なる変身の連続技で満足度の高いワーキングライフを手に入れようとする若者たちは、いかにもフリーランスがお好みでありそうだ。

次ページ背景にあるのはベテラン・サラリーマンたちの「願望」

本連載は、浜矩子氏の著書『人が働くのはお金のためか』(青春出版社)から一部を抜粋し、再構成したものです。

人が働くのはお金のためか

人が働くのはお金のためか

浜 矩子

青春新書インテリジェンス

富裕層の不労所得が増大と集中をする一方で、経済格差は広がり、「使い捨て型」雇用は増え、働く人々に貧困が忍び寄る。グローバル化の進展とともに富の偏在は進み、「21世紀の資本」は凄まじい規模と速度で国境を越え、広がっ…

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