(※写真はイメージです/PIXTA)

管理職と部下のデスクの距離は、オフィスレイアウトを考える上で配慮したいポイントです。どのくらいの距離を取るかによって、業務に影響を及ぼしてしまうことがあるからです。産業医の富田崇由氏がコストゼロからできる健康経営について解説します。

みんなが気持ちよく仕事をできる職場

▶作業環境管理②パソコン作業やテレワークのときの注意

パソコンなど情報機器に向かう時間が長い職場では、情報機器作業の環境もチェックすべきです。

 

窓からの太陽光が画面に反射して見えづらい、机まわりが狭く、不自然な姿勢で作業を続けているなど適切ではない環境・設定のまま仕事をしていると、眼精疲労や視力低下、頭痛、肩こり、腰痛といった健康障害を起こしやすくなります。また疲労や見えづらさによって業務上のミスが増えると精神的なストレスが高まります。

 

パソコン作業をする机は業務に必要なものを配置でき、作業中に腕や脚がきゅうくつにならない十分な広さがあるのが理想です。また机や椅子の高さも低過ぎたり、高過ぎたりすると不自然な姿勢を招きます。調整が可能なものは、体形に合わせて高さなどを調整して使います。

 

パソコンなどのディスプレイは、室内の環境や作業する人の見やすさによって、輝度(明るさ)やコントラストを調整します。適正な画面の明るさの目安は500ルクスです。

 

蛍光灯の照明をつけた事務所や百貨店の売り場などが、だいたい500ルクスとされています。画面と周囲との明るさの差が少ないことも大切で、残業などで部屋の照明を消して明るいパソコン画面だけを見続けるのは良くありません。画面に太陽光が当たるようなときは、ブラインドやカーテンで日光を遮ります。

 

ほかにも画面とキーボードを分離できるデスクトップパソコンを使う、使いやすいマウスを使うなども、情報機器作業による疲労や健康障害の予防になります。

 

コロナ禍以降はテレワークの普及により職場以外で情報機器作業をする人も増加しています。テレワークでは自宅のソファに座り、低いソファテーブルでパソコン作業をするなど、職場以上に作業環境が作業に合っていない例が多いので注意が必要です。

 

▶作業環境管理③整理・整頓・清掃・清潔・しつけの「5S」が大事

産業保健では業務を安全かつ効率的に行うために「5S活動」が重要といわれています。5Sとは整理・整頓・清掃・清潔・しつけ、の5つのローマ字表記の頭文字です。

 

・整理:必要なものと必要のないものをはっきり分けて必要のないものを捨てる。
・整頓:必要なものを使いやすいように決められたところに置き、誰にでもわかるようにする。
・清掃:職場や仕事で使用する道具・機械などを常に掃除し、きれいにする。
・清潔:作業場や働く人が使用する施設を清潔に保ち、働く人の身なりも清潔にする。
・しつけ:職場のルールを明確にし、決められたルールをいつも正しく守る習慣をつくる。

 

整理整頓や清潔が職場の安全や社員の健康につながるのは、イメージとして理解しやすいものです。ただ実際は小さな会社では業務に追われて整理整頓が追い付いていないことがあります。ずっとそういう環境だと物の使い方などが少々不便でも、それに慣れてしまって何とも思わなくなっているケースもあります。

 

しかし物の置き場が乱雑でいつも何かをどけないと使いたいものが取れないとか、必要なものの在庫が切れていてもわからず使いたいときに在庫がないことに気づいて慌てて買いに走るとか、そういった小さなストレスの積み重ねが疲労感や職場への不信感となり、社員の心身の活力が低下してしまう例も意外にあります。

 

また整理整頓や清潔は人によっても感覚が異なります。不要なものは早く捨ててきちんと整理したいタイプの人もいれば乱雑でも気にならない人、あまり細かいことを言わないでほしいという大雑把な人もいます。だからこそ職場全体でルールを明確にし、みんなが守るという「しつけ」も必要になります。

 

例えば職場の本棚の手前に横向きに本が置かれている事業所があります。そのような職場ではいつも特定の人が横向きに詰まれた本を片づけていたりします。この片づけをするタイプの人は数カ月後にメンタル不調を発症するリスクが高いです。

 

横向きに本を置いている社員からすると片づけてくれて有り難い、○×さんはきれい好きなんだなという程度かもしれませんが、本人は、他人のしたことの後始末で自分の仕事の効率が落ちますし、「いつも片づけているのに何度やっても改善しない。もしかして私に対する嫌がらせでは……」と、どんどんネガティブな方向に考えが傾いてしまうことがあります。

 

やはり社内の誰もが仕事をしやすい整理整頓された職場、清潔な職場をつくっていくことが大事です。「昔からこうだったから」「忙しいからあとで」とやり過ごしてしまわず、「5S」を意識して見直しをすることが大切です。

 

▶作業環境管理④休憩スペースがない職場は高ストレス

職場環境改善というとオフィスや実際の作業をする場所、来客スペースなどに気を取られてしまいますが、休憩室や更衣室、洗面所など、いわゆるバックヤードと呼ばれるような施設も非常に重要です。

 

〈疲労回復支援施設〉

・休憩室など:休憩室や仮眠室など、疲労やストレスを癒す施設
・洗身施設:シャワー室などの多量の発汗や身体の汚れを洗う施設
・相談室など:疲労やストレスについて相談できる施設
・リラクゼーション施設など:体を動かすための運動施設、緑地など〈職場生活支援施設〉
・洗面所、更衣室など:洗面所、更衣室など、就業に必要となる身なりを整える施設
・食堂など:食事をすることのできるスペース
・給湯設備、談話室など:お湯を沸かして飲料を用意したり、飲んだりできるスペース

 

職場は1日のうちでかなり長い時間を過ごす場所です。安心して業務に集中できる環境をつくるとともに、着替えなど準備をする施設や、休憩・疲労回復のための施設も快適で気持ちのいい場所であることが大切です。

 

私の経験でもお客さんが来るオフィスはピカピカにキレイなのに従業員が着替えをするロッカーが乱雑で照明の電球も切れたままという職場がありました。経営者はバックヤードは外部の人の目に触れず、社員しか使わないからいいだろうと思うのかもしれませんが、電球の切れた薄暗いロッカーで更衣をする従業員は「自分たちは会社に大事にされている」という実感はもてないものです。電球くらいはすぐに補充できますから、明るく清潔に、気持ち良く使えるようにしておきたいものです。

 

また小さな会社では、スペースの都合で休憩室がないこともよくあります。従業員が10人に満たない美容室などは、営業時間中は職場を離れることもできず、バックヤードも常に上司と一緒で部下は気が休まる瞬間がなく、高ストレスになっていることがあります。毎日は無理でも、予約や来客が少ない曜日は外の喫茶店で1時間休憩してもよいとするなど、ホッとできる時間をもつ工夫が必要です。

 

富田 崇由

セイルズ産業医事務所

 

 

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※本連載は、富田崇由氏の著書『コストゼロで作る小さな会社の健康な職場』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

コストゼロでつくる小さな会社の健康な職場

コストゼロでつくる小さな会社の健康な職場

富田 崇由

幻冬舎メディアコンサルティング

働く人の健康問題に注目が集まっていますが、組織として健康増進に取り組んでいる企業は多くありません。 「健康経営」や「従業員の健康づくり」は必ずしも産業医がいなければできないものではなく、小さな会社でもコストを掛…

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