社長が社員に「健康宣言」をする
■最初に社長が社員に「健康宣言」をする
私がいつも小規模事業所の経営者や人事・労務担当者にお伝えしているのは、最初に社長が社員に対して「健康宣言」をしてほしい、ということです。職場のトップが「うちの会社では、社員の健康を今まで以上に大事にしていきます」と宣言するのです。
よく人事・労務の担当者とお話をしていると「社長がいちばん心配」という声を耳にします。経営者というのは当然ながら自信をもっている人が多く、ある程度、年齢が高い人でも自分は健康に問題がないと過信して、社員の健康管理への取り組みが遅れることがあります。
また社員の健康管理の必要性は理解していても、コストや人員不足などから二の足を踏んでしまい、導入が先送りになることも少なくありません。物的、人的資源が限られる小さな会社では、社長の理解がないと職場全体での健康づくりはなかなか進めにくいものです。
逆に小さな会社は、社長がその意義や必要性を理解して「やる」と決めれば、スピーディに計画を進められます。そういう決断の速さや柔軟性、トップと社員の理念の共有といった点は、小さな会社ならではの強みです。ですから、最初に社員に「健康な職場をつくる」と宣言することが大事なのです。
理想をいえば、経営理念のなかにその姿勢を明文化するのがベストです。例を挙げるとすれば、次のようなものが考えられます。
「わたしたちは、従業員一人ひとりの健康を大切な財産と考え、従業員が心身ともに健康で長く働き続けられる職場づくりを目指します。また健康経営を通じて、従業員とその家族のみならず、社会全体の幸福の実現に貢献していきます」
こうしたトップのメッセージを社員だけでなく顧客や取引先、株主に示すために、社内報やホームページ、年次報告書などで発信していくのです。
なお、全国健康保険協会(協会けんぽ)の愛知支部では、健康づくりを始める会社のために「健康宣言」のフォーマットを用意しています。所定の用紙に会社で取り組む予定の健康施策をいくつか選んで提出すると、受付などに掲示できる「健康宣言チャレンジ認定証」をもらえるということです。
そのほか健康経営についての情報提供や、愛知銀行、中京銀行、名古屋銀行での金利優遇サービスも受けられます(2022年1月時点)。協会けんぽのほかの支部でも、同様の取り組みをしているところがありますので、調べてみてください。
■健康管理をするための体制をつくる
小さな会社では社長が唐突に健康宣言をしたとしても最初から社内で全面的に歓迎されるとは限りません。「社長がまた何かやり始めたらしい」と、社員は冷ややかに見ている場合もあります。でも、それでもいいのです。最初は社員も半信半疑かもしれませんが、これから実践を進めていくという決意が大事です。
「健康宣言」を外向けのパフォーマンスではなく、担当部署や一般の社員も納得して取り組める実効性のあるものにするためには、社内で健康づくりをする体制をつくることが重要になります。
社員の健康管理のための体制づくりとは、産業保健の「5管理」のなかの「総括管理」に当たります。総括管理とは、組織として健康管理に取り組む体制を構築し、健康管理の計画を立て実践後の評価や見直しなどをしていくことです。
なぜ総括管理が必要かというと、職場の健康づくりは社長だけ、あるいは一部の担当者だけでできるものではないからです。社長から従業員までが方針を共有し、全員で取り組みを進めていくためには、方針を決め、取り組みをリードしていく中心メンバーやチームが必要になります。
従業員数50人以上の産業保健でいうと、この総括管理を行うのは衛生委員会を構成するメンバーが中心になります。
衛生委員会は定期的に社内の代表者と産業保健の専門家が集まり、社員の心身の健康リスクや健康増進の方針などを話し合う場です。いわば社員の健康管理のための情報共有をし、作戦会議をするのがこの委員会です。メンバーは統括安全衛生管理者(会社全体の健康管理の責任者)、衛生管理者(健康管理業務の中心を担う担当者)、作業主任者、労働者の代表、産業医などです。
従業員数50人以上の事業場は、会社がこうした各担当者や産業医を選任することや、月1回衛生委員会を開催することが法令で定められています。