成年後見と家族信託、何が違う?
まず、以下の一覧表を見てほしい。この一覧表は、▼成年後見、▼家族信託の二つの片方を用いた時に、できること・できないことを「◎大いにできる、〇できる、△できる場合もある、×無理」と4段階で評価したものだ。
最初に書いておくが、成年後見制度と家族信託、どちらも完ぺきに障害を取り除いてくれるわけではないが、それでもかなり有効で使いやすいのは家族信託であった。
そもそも成年後見制度と家族信託とは何か
まず優劣を比較する前に、前提を説明しておかなければいけない。
成年後見は「事後にやむなく使う制度」
成年後見は、事後にやむなく使う制度だ。
認知症がひどくならなければ、誰だって自分のことは自分でする。後見人は、本人にない特別な権能を持っているわけではない(本人の代理に過ぎない)ため、健常なうちは必要ではない。
必要になるのは、本人が判断力を失ってしまうという“異常時”(ひどい認知症などの時)に陥った後だ。その時に、成年後見人は法の権限でもって「本人を代理する」。
だが、成年後見制度は、いわば異常時になる前からの準備が無かった時の緊急避難的な措置で、異常時になる前から準備をしておく家族信託に比べて、できることが限定される。実際、一覧表の30項目のうち、成年後見人の「〇」は11項目、「◎」は2項目だけだ。
家族信託は「事前に備えるための制度」
一方、家族信託は「追い込まれる前に危機に気づき、本人が健常か、認知症状の軽いうちに家族と契約する」という手法であり、いわば「事前に備えるための制度」だ。
受託者は、委託者が信託したときに財産名義を委託者名から「受託者(自分)名義」に換えるから、所有者としての権限を有す。そのため、家族信託の受託者は、本人(委託者)から財産を信託され、財産を管理・処分できるようになる。
預貯金といった、託されて管理処分ができない財産は家族信託では扱えない。しかしそれでも、家族信託は、6項目で「〇」、8項目で「◎」が付いた。