信託前の財産管理、代理人カードがおすすめ
老いてきた親のお金の管理が心配で、ある時期から娘さんが代わりに銀行に行ってお金の出し入れをする──。それを誰にとがめられることもなく、正々堂々とやっていくために「家族信託」があるわけですが、多くの場合、すぐに「契約しよう」と決心がつくものではありません。
しかし、銀行に凍結される可能性は常に念頭に入れておかなければなりません。そのためのベストな選択とは、一体何なのでしょうか…?
その答えは、最低限のことですが、親にキャッシュカードを作ってもらうことです。80ほどの高齢の方の中には、キャッシュカードをかたくなに作らない人もいます。私の母もそうでした。しかし、母の介護が始まったとき、父が説得して、1口座だけですがカードを作りました。これが後日、家族を助けることとなりました。
本人のカードを作るなら、同時に代理人カード(家族カード)を作れたら理想的です。このカードは、本人が窓口で希望すれば、書類1枚ですぐに手続きは終わります。必要書類は▼届出印、▼本人のキャッシュカード、▼本人の身分証明書です。1週間ほどで本人宛に簡易書留で送ってくれます。料金は1000円程度の銀行が多いようです。
カードを渡す相手については、大半の銀行が「生計を共にしている家族(同居、仕送り)」としています。またカード発行希望の理由としては、このご時世、「実家の親の財産を管理する」という内容は認められる可能性が高いと思われます。また、申込みの際に、「生計を共にしていることを証明するための家族の資料等」は求められません。
キャッシュカードと代理人カードはほぼ一緒
写真は、私のキャッシュカードを家内にも1枚持っていてもらうために地元信金で作った代理人カードです。口座番号も名義も本人になっていますが、唯一私の持つカードと違うのは「口座番号末尾に『D』が入っていることです。
代理人カードを紛失したり、カードの磁気がなくなった際には、“本人”ではなく「代理人からの申し込み」でも銀行は再発行してくれます。
親の中には代理人カードを渋る人もいるでしょう。でも、スペアのカードを家族が共有することは、親子に信頼関係がある証です。結果的に銀行の信用が得られ、定期的なカード使用にチェックが入りにくくなる効果も期待できます。
親には「凍結されないための対策」と説明して、カードについても「(私は勝手に使わないから)当面はお母さんが両方持っていてね。おろしたいときだけ代理人カードを貸してくれればいいから」と、やさしく説明してください。
定期預金の解約はできません
代理人カードがあれば家族信託は必要ない、と考える人がいますが、カードを2枚持つのはあくまで予備的な措置です。代理人カードがあっても、定期預金の解約ができないことは変わりません。
ですから将来の凍結に備えて、後見人を自分で選ぶ任意後見契約を使おう、という人もいます。しかし最近は、契約内容に「預貯金口座の解約」が入っている場合でも、定期預金の解約については、本人または成年後見人だけとする銀行が多く、いざ任意後見が始まっても、目的が達せられない可能性があります。
財産管理委任契約や、銀行とお客さまとの「任意代理」という制度もありますが、こと定期預金については同様です。
結局私の結論は、①本格的な財産管理までの“つなぎ”として使うなら代理人カードで十分、そして②老親に本格的な財産管理が必要だと見切ったときには家族信託に移行していく――です。