(※写真はイメージです/PIXTA)

現在、さまざまな自動車メーカーが自動運転の開発を進めています。しかし、莫大な開発資金の必要性により、多くの企業で事業継続が危ぶまれているのが現状です。そのようななか、Googleの自動運転車開発部門が分社化して誕生したウェイモは、思い描く未来に向けて緻密な構想をし、着々と事業を進めているといいます。みていきましょう。

 

「いかに安くモノを移動させるか」で争わない

ウェイモは移動先から広告料を得ることで無料での移動サービスを可能にする新たなビジネスモデルも模索している(図表1)。

 

出所/シリコンバレーD-Lab第3弾リポートを改編
[図表1]Googleが狙う無料の移動サービス 出所/シリコンバレーD-Lab第3弾リポートを改編

 

ウォルマートとの実証実験では、ウェブサイトで商品を注文した場合、自動運転車両で顧客を店舗まで送り、購入商品をピックアップするついでに買い物をしてもらう試みを行っている。もちろん、帰りの送迎も自動運転車両で行い、無料だ。

 

ウォルマートにとっては顧客獲得コストを移動代金に充てることとなる。顧客に店舗へ来てもらうことでさらなる売上増につながる可能性があり、顧客にとっても交通費が無料で店舗に行けるメリットが生まれる。

 

すでにグーグルが申請している特許では広告主から依頼を受け、50%オフなどのクーポンを顧客に発行するビジネスモデルが示されている。小売店では通常はモノの移動をいかに低コストで実現するかがセオリーとなるが、グーグルは逆に人を移動させる発想でのアプローチを検討している。広告モデルを活用して無料でモビリティサービスを展開しようとしているグーグル/ウェイモのアプローチには、今後注目していきたい。

個人のニーズに合う移動サービスを実現「自動車OS」

グーグルの2つ目のアプローチは、スマートフォンと同様に、自動車も一つのハードウエアデバイスと捉えてアンドロイドシステムを自動車に展開する戦略である。

 

スマートフォン向けのアンドロイドOSの場合は、開発環境をオープンにしてハードウエア端末の違いも吸収しながら、1つのアプリを開発すると世界中のモバイル端末の7割を超えるアンドロイドOS顧客に利用されるという仕組みである。このスケールメリットが、世界中のエンジニアを引き付け、膨大なアンドロイドアプリケーションが提供されるという画期的な顧客体験価値を生み出してきた。

 

グーグルはアプリマーケットのビジネスとして、アプリ開発者側から手数料を徴収することによりマネタイズを図っている。手数料としてアプリの売り上げ(アプリ自体の販売価格やアプリ内課金などを含む)の30%を課金しており、一部年間売上高が100万ドル以下の部分については手数料を15%に落としたものの、結構な手数料を徴収する構造となっている。

 

ロボタクシー時代を見据えて自動車でも車内体験の主役になるために、グーグルは当初車載インフォテインメントシステム(自動車におけるナビゲーションやマルチメディアシステム)のアンドロイドOS化を目指した。

 

ただ、自動車メーカーとの交渉は簡単には進まなかった。まず課題になったのはシステムの信頼性である。自動車は一つ間違えれば命にかかわるプロダクトである。フリーズや再起動などは許されないためオープンソースのプラットフォームの場合、誰がその修正や機能を管理し、保証するのかといった難しさもあり、導入までなかなか至らなかった。2つ目に、自動車メーカーからすると、自動車が取得するデータ一式をITプラットフォーマーであるグーグルに持っていかれるかもしれないという不安感も大きな要因であった。

 

そうしている間にアップルは14年3月に「Car Play(カープレイ)」という、iPhoneと自動車をつなぐサービスをリリースした。iPhoneのようなインターフェースで車載ディスプレーに表示(ミラーリング)でき、運転中も安全に車載デバイスや音声認識のSiriでナビゲーションや音楽などを楽しめるものだ。

 

カープレイは、車載インフォテインメントシステムのOSそのものを置き換えるものではなかったため、自動車メーカーとの交渉も比較的容易に進んだ。アップルはグーグルに先んじてスマートフォンの体験を自動車に持ち込むことに成功したのである。

 

グーグルも当初狙っていたOSの置き換えではないものの、同じミラーリング機能であるアンドロイドオートを15年にリリースし、自動車向けの車内体験のドアを開けていった。アンドロイドスマートフォンのグローバルな普及の強みを生かし、22年11月時点で自動車メーカー61社以上、46カ国にまで拡大している。

 

グーグルは並行して自動車メーカーとのOS導入の交渉を進めていった。昨今の車載インフォテインメントの多機能化に伴う開発規模の増大によって、1社だけで開発するには困難でオープンソースに頼らざる得ない状況となった。

 

その背景もあり、ついに17年にはグーグルから車載インフォテインメント向けOSであるアンドロイドオートモーティブOSが発表され、ボルボへの採用が決まった。その後もアウディやBMWといった自動車メーカーにも採用が広がり、今後圧倒的なシェアを予想する調査会社も出てきた(図表2)。

 

出所/ ABI Research(https://www.abiresearch.com/blogs/2022/07/14/how-android-automotive-os-ischanging- connected-vehicle-services/)
[図表2]車載インフォテインメント搭載OSの世界シェア予測(2019~2030年) 出所/ ABI Research(https://www.abiresearch.com/blogs/2022/07/14/how-android-automotive-os-ischanging-connected-vehicle-services/)

 

このようにグーグルがミラーリング機能(アンドロイドオート)からもう一段踏み込んだOSの導入を進めることによる価値は、1つ目は持っている携帯電話が、アンドロイドスマートフォンかiPhoneかにかかわらず、車単独でアンドロイドのアプリ(車載向けアプリに限定あり)が利用できるようになること。

 

2つ目は、車の基幹システムとネットワークでつながることになるため、タイヤの空気圧や車内温度、バッテリー残量など、車から取得される各種センサーデータへのアクセスが可能になることであり(実際アクセスできるかどうかは自動車メーカー各社に依存)、大きなインパクトがある。

 

ロボタクシーサービスでの体験を考える。ロボタクシーサービスにおいては、顧客は運転から解放され自由に時間を過ごすことになるので、グーグルの基本アプリを車内で使えること自体、継続性が生まれ便利に感じる。さらなる乗車体験をつくるうえでポイントになるのが、顧客が「いつ」「なぜ」「どのような状況で」移動したいのかという、移動デマンドの取得である。グーグルは移動検索におけるシェア70%超を誇るグーグルマップにより移動の入り口をおさえている。

 

A地点からB地点への移動ニーズがグーグルマップに記憶されているわけである。どこからどこに移動したいというニーズに、グーグルアカウントから得られる生活情報を加えて、顧客の移動目的、環境を把握することができる。

 

これらの情報を使えば、GMが実施していたような車が通過している場所を基に顧客の嗜好に応じてクーポンや広告を出す場合にも、より顧客の意向に添った体験を演出することが可能になる。

 

顧客のレストラン検索の履歴から好みのレストランをプッシュし、ロボタクシーの移動最中にこだわりの食材情報やレストランを楽しむための情報表示、顧客がデート中であれば雰囲気をよくするための音楽も提供できる。データを個人のIDや属性情報と結びつけて分析することで、個人のニーズに合った移動サービスを実現することが可能になるのである。

 

ロボタクシー時代には、移動の目的をおさえたうえで、目的に合わせた最適な移動体験を提供することが重要となる。様々な顧客体験を試しながらデータ分析し、その人にぴったりと合った全く新しい移動体験を実現していけるだろう。グーグルがスマートフォンのエコシステムで確立した体験をロボタクシーに応用していけば、おのずと顧客は離れられなくなる。

 

ビジネスモデル的にも、Gメールやグーグルカレンダー、YouTubeなど、顧客が日々使っている基本アプリは無料だろうが、ロボタクシーならではの便利サービス(ロボタクシーネーティブのアプリ)ができれば、そこからの課金が可能になると考えられる。また、広告モデルを組み合わせれば、ロボタクシーネーティブのアプリも無料で提供されるかもしれない。

 

想像にはなるが、車種にかかわらず世界中のロボタクシーのセンサーデータを使ったオープンアプリケーション開発環境が提供されれば、将来のハンドルがない大きな画面を実装したロボタクシーならではの楽しみ方ができる、今までにない車内体験や空間の提供など新たなサービス価値が生み出されるかもしれない。

 

この場合、スマートフォンと同じようにアプリマーケットプレースでの課金が開始されるであろう。開発者コミュニティーが車の体験価値を高める工夫を凝らし始めると、車内体験価値の中心をGoogleのOSと開発者エコシステムが生み出される形となり、圧倒的なプラットフォーマーの座が確保されることになるかもしれない。

 

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次ページ人の移動だけで終わらない…「ロボタクシー」からさらに新たな市場獲得も

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