(※写真はイメージです/PIXTA)

現在、さまざまな自動車メーカーが自動運転の開発を進めています。しかし、莫大な開発資金の必要性により、多くの企業で事業継続が危ぶまれているのが現状です。そのようななか、Googleの自動運転車開発部門が分社化して誕生したウェイモは、思い描く未来に向けて緻密な構想をし、着々と事業を進めているといいます。みていきましょう。

 

物流、スマートシティ…グーグルが見据える未来

ウェイモは人を乗せる車のみならず、セミトレーラーへの自動運転の適用も開始している。背景として、新型コロナ禍を経て北米は深刻なドライバー不足に見舞われており、物流大手も効率化を目指して動きが活発になってきているためである。また、安全面の技術確立という意味でも、固定ルートを走行する物流車両は適しているといえる。

 

実際、自動運転トラック部門であるWaymo Via(ウェイモビア)は、輸送大手のJBハント・トランスポート・サービシズと戦略的提携を結び、UPS(ユーピーエス)との既存の提携を拡大、自動運転型のクラス8トラックによる貨物輸送を行うことになった。

 

自動運転トラックには2人のスペシャリスト(商用運転免許を持つドライバーとソフトウエア技術者)が同乗し、自動運転中のドライバーの操作を監視する。トラックは高速道路でのみ自動運転となり、一般道では手動モードに切り替わっている。地域配送では、北米最大級のスーパーマーケットチェーンであるアルバートソンズと初のエンド・ツー・エンド食料品配送パートナーシップを締結。23年には同社のセーフウェイ店舗の1つからサンフランシスコの住民に自動運転で食料品を配送するという。

 

このようにロボタクシーの市場獲得に向けて、ウェイモはソフトウエア提供を軸にする強みを生かし、人の移動だけではなく、モノの移動(物流)も見据えながら「ロボタクシーxOO市場」(小売りや医療など様々な市場との掛け算)へのアプローチを探索している。

 

さらに、グーグルはスマートフォンと車の体験の融合だけではなく、家や学校、街づくり全体をDXの観点からつなげて新たな体験を実現しようとしている。グーグル兄弟会社のサイドウォークラボは都市計画や都市インフラを構築する部門として15年に作られた。ただ、カナダのオンタリオ州トロントで12エーカー(4.9ha)の地区を開発するスマートシティプロジェクトを手がけていたものの、2020年5月、住民との合意形成に至らずプロジェクトは頓挫した。

 

サイドウォークラボのプロジェクトは中止という形になっているが、実はここから得たものも大きいと考える。今後、普及が予測されるスマートシティにおいてモビリティサービスは不可欠な要素と考えられ、生活情報から移動データまで一式をプラットフォームとして実現するには、サイドウォークラボが直面した住民や自治体との合意形成に必要な手順、データ利活用に関する許容範囲の考え方などは、乗り越えなければいけない壁であり、次のプロジェクトへの学びになったに違いない。

 

Googleが描くロボタクシーの世界へ着々と進んでいる

ここまでまとめてきたようにグーグルの最大の強みは、他社を圧倒する総走行距離を誇る自動運転技術と、顧客が日々使っているアプリケーションやサービス群の延長で提供される車内体験であろう。既存の自動車メーカーが現在のADASの延長で自動運転技術を捉え、自動運転のレベルを徐々に上げていくアプローチを採用しているのとは異なり、ロボタクシー時代を見据えていきなりレベル5の完全自動運転技術の確立を目指していることも強みである。

 

グーグルはあたかも16年のウェイモ設立当時から、先述のフィクションで記載した来るべきロボタクシーの未来を描いており、それを実現するためにバックキャストで研究開発を進めているように見える。

 

またGMのように特定車種の車両向けではなく、他社車両の横展開を見据え、アンドロイドスマートフォンで成功したようにオープンな開発環境を提供し、世界中の開発者のエコシステム構築を狙っているようにも考えられる。自動運転の実現は安全性と膨大なコストの問題から一筋縄ではいかないものの、着々とGoogleが描くロボタクシーの世界へ進んでいるように見えてくる。

 

【参考文献】

Deloitte(2022) Global Automotive Consumer Study


Sam Unsted(2019) Robo-taxi industry could be worth $2 trillion by 2030, Bloomberg News, May 28, 2019


日経XTREND(2022)「CES 2022開幕 車内でフィットネスまでできる、LG電子の未来カー」,2022年1月

Kirsten Korosec(2022) Cruise has expanded its driverless robotaxi service to daytime hours,Tech Crunch,November 16, 2022


Rebecca Bellan(2022),Cruise to launch robotaxi services in Austin, Phoenix before end of 2022, Tech Crunch, Sep12,2022


デロイトトーマツコンサルティング(2016),モビリティー革命2030 自動車産業の破壊と創造,October 6, 2016

 

 

木村 将之

デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社

シリコンバレー事務所パートナー、取締役COO

 

森 俊彦

パナソニック ホールディングス株式会社

モビリティ事業戦略室 部長

 

下田 裕和

経済産業省

生物化学産業課(バイオ課)課長

 

 

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※本連載は、木村将之氏、森俊彦氏、下田裕和氏の共著『モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質』(日経BP)より一部を抜粋・再編集したものです。

モビリティX シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質

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木村 将之、森 俊彦、下田 裕和

日経BP

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