「子どもや部下のやる気を引き出したい」「能力を最大限発揮できるよう背中を押したい」そう願う指導者は、どのように導けばいいのでしょうか――。数多くのプロ野球選手、さらにはとんねるずの石橋貴明を輩出した帝京高校野球部。本強豪校の監督として全国制覇を3度経験、甲子園通算51回の勝ち星をあげた名監督・前田三夫氏が自身の経験をもとに、子どもの「伸びしろ」の見つけ方・育て方を解説します。
自分の役割にプライドを持って取り組む選手は、勝利を引き寄せるチームの「財産」
聞けば、彼は普段の練習のシートノックの時点から、「この打球だったら回す」「この打球は回さない」とイメージしていたと言います。
またあるときは、全体練習が終わったあとに、三塁のコーチャーズボックスに立ち、二塁にランナーを置いて外野にノックを打って、打球からホームに突っ込ませるか、あるいはストップさせるかという、判断力を磨く練習を繰り返し行なっていました。それが実際の試合での勝負どころでの的確な判断につながったのです。
そこまで日頃から分析しているのであれば、私は絶対に文句は言いません。むしろ、「そこまで見ているのであれば、たとえ失敗することがあったとしても、責めることは絶対にしない」と決めています。
自分が与えられたポストに対してプライドを持って取り組んでいるのですから、私はその点を評価してあげるようにします。
こうした選手がチーム内にいることは財産ですし、確実にチーム力が上がります。
帝京高校・前田の法則
「縁の下の力持ち」的な立場だとも言えますが、彼らが的確な判断、的確な指示を出してくれることで、「あと1点」「次の1点」「もう1点」を奪うことができる。結果、チームの勝利に結びついてくるものだと、私は考えているのです。
■前田の法則
チームの底力を支えるのは、控え選手の「縁の下の力」
前田 三夫
帝京高等学校硬式野球部
名誉監督
帝京高等学校硬式野球部
名誉監督
帝京高等学校硬式野球部名誉監督。千葉県袖ケ浦市出身、木更津中央高等学校(現・木更津総合高等学校)・帝京大学卒業。木更津中央高等学校時代は三塁手として活躍するも甲子園の出場経験はなし。大学時代は4年の秋に三塁ベースコーチとしてグラウンドに立っただけで選手としては公式戦出場なし。練習を手伝っていた縁で1972年帝京大学卒業と同時に帝京高校野球部監督に就任。1978年春の選抜高校野球で甲子園初出場を果たし、1980年春は伊東昭光投手を擁し準優勝。以後、練習場である校庭が(こちらも強豪となる)サッカー部と共用という恵まれない環境に長らくありながら、89年夏、92年春、95年夏と全国優勝3度の強豪チームへと育て上げた。同校野球部は高校野球ファンや国内メディアから「東の横綱」と呼ばれるほどの甲子園強豪校となる。教え子となるOBに伊東昭光(元・ヤクルト)、芝草宇宙(元・日本ハム-ソフトバンクなど)、吉岡雄二(元・巨人-近鉄-楽天など)、三澤興一(元・巨人-近鉄-ヤクルトなど)、森本稀哲(元・日本ハム-DeNA-西武)、中村晃(現・ソフトバンク)、杉谷拳士(現・日本ハム)、山﨑康晃(現・DeNA)、原口文仁(現・阪神)、松本剛(現・日本ハム)、清水昇(現・ヤクルト)、タレントの石橋貴明(お笑いコンビ・とんねるず)など多数。2021年8月30日、監督を退任。現在は名誉監督としてチームを支え続けている。
写真:上野裕二
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連載甲子園・全国制覇に3度導いた帝京高校・前田流 「伸びしろ」の見つけ方・育て方