選手としては控えでも、ベースコーチとして一流の部員がいる
そのポジションとは、ズバリ「一塁と三塁のベースコーチ」。この2つのポジションは9つの守備位置を加えた中でもとくに重要視していました。これは私の経験に基づく考えです。
私は大学時代、ずっと控え選手でいました。どんなに練習をしても、レギュラー選手の実力に追いつくことができない。それどころか、1年、また1年とすぎると、その差はどんどん広がっていくように思えたのです。
そうしたなか、4年生最後の年になって、「一塁のベースコーチをやってみないか?」と言われたのがきっかけで、晴れて帝京大学の公式戦用のユニフォームを着ることができたのです。まさに天にものぼる気持ちでいっぱいでした。このときの経験から、私は一塁と三塁のベースコーチは、控え選手の中から選ぶことにしたのです。
たしかに、身体能力や技術だけで判断したら、レギュラーの選手と比べて見劣りするかもしれない。けれども、ベースコーチに必要なのは、「的確な判断力」です。これさえ備わっていれば間違いなくコーチャーが務まります。
試合で前田監督より的確な判断をしたベースコーチ
ある試合でこんな場面がありました。ワンアウトランナー二塁という場面で、打者がセンター前ヒットを放った。相手の中堅手がその打球をやや後ろに下がって捕球したところ、三塁のベースコーチャーはランナーに対して「ストップ」をかけたのです。
私は一瞬、「ここは『ホームへゴー』じゃないのか」とやや疑って見ていたのですが、直後、センターからホームへ返球されたボールを見たら、なんとノーバウンドのストライクで返ってきたのです。
私はこのイニングが終わって、三塁ベースコーチャーに「よく見ていたな。ナイス判断だった」と声をかけました。すると、こう答えたのです。
「試合前のノック練習で、レフトとライトに比べて、センターはやけに肩がいいなと見ていたんです。右中間寄りの打球を処理して三塁へ返球した際、ものすごくいいボールを返していました。『打球の方向によっては、あまり無茶はしないほうがいいな』と考えた末のストップだったのです」
私は思わず、「本当によく見ていたな。お前さんのファインプレーだよ」と絶賛したのです。