社員のモチベーションは業績に直結する
■社員の内発性を阻害する要因
組織にはたいていみんなが問題だと気づいているのに触れてはいけない事実があります。
それを放置して命令や叱責ばかり行われると、社員は「あの問題があるのにそれを放っておいて、なにを言ってるんだ」と、上司に面従腹背な態度を取るようになります。このような組織では、社員は心のスイッチを8割ぐらい切っておかないと生きていけません。
やる気や情熱が阻害されると社員の思考の質は下がります。言われたことだけやっているふりをすればよい、どこまで手を抜いてもばれないか、などと考えます。こういう社員の行動の質が高くなるはずありません。表面上は仕事をやっているふりをしますが、心がこもっていないのでミスやクレームを続発させるのです。当然の帰結として、会社の成果の質=売上は下がり社会的な存在価値も低下し、最終的にその会社は存続できなくなります。
よく書店に並んでいる経営指南書にも「売上アップは七難隠す」などとあるように、右肩上がりで成長・拡大している間はトップダウン型でうまくいきます。しかし、問題と向き合わずに利益を出しても、ただ厄介ごとを先送りしただけですから、時代が変われば問題は表面化します。
これまでの固定観念でうまくいかないのであれば、経営者や上司側は「問題はすべて部下にある」と考えていた外向き・他責的な視点を、内向きにしてみる必要があります。
「僕たちの伝え方が悪かったのかもしれない」「私たちがなにを目指しているのかを丁寧に共有しなかったかもしれない」という内省的な気持ちが上司側で高まってくると、部下も変化し始めます。その様子を見て、上司も「やっぱりこうしてあげたほうがよかったんだ。今までやってなかったからうまくいかなかったんだ」と確認できます。
上司が内省的になると「上司の話を聞いてみようか」と、部下の気持ちも変化します。お互いの内省度が高まれば、相互に影響し構造に変化が生まれ、意識改革は着実に進んでいきます。こうして経営者や幹部が、「社員だけが悪いのではないかもしれない」と考えるようになって初めて、組織に変化が起きるのです。
■モチベーションにつながる社員の感情を重視する
やる気いっぱいで入ってきた社員が、3カ月経ったらほかの社員と同じように目に光がなくなったと嘆く経営者がいます。
その場合に私がすることは「あいつもだめだった」という経営者の目線を人材育成へとずらしていくことです。社員というのは話すスキル、説得するスキル、聞き出すスキル、すべてにおいて未熟です。そのため経営者は「レベルを少しずつ上げるには、人材育成に対して自分はなにができるのか」という目線で関わる必要があります。
経営者が強い関心をもつのは売上や利益ですが、バランススコアカードで分析される財務指標と顧客満足度は結果指標なので直接コントロールすることはできません。ただ、それらを支える業務のカテゴリーなら、社内のことなので手が届きます。この質を高めることで顧客満足度が上昇し、売上も上がるようになります。
組織の変革が進んでより良い会社になれば、業績が向上する可能性は無限に高くなります。なぜなら従業員が自発的に良い組織にしようとする会社では、売上が落ちることは考えられないからです。
社員が「顧客に本当に喜んでもらえるようにしよう」「プロとして自分が納得できるレベルの仕事をしよう」と考えるか「とりあえず上司に怒られない程度にやっておこう」と考えるかで、行動の内容や質には大きな違いが生まれます。成果としての業績に強く影響を与えるのです。
良い会社にしようという社員のモチベーションは顧客満足度の向上につながるので、売上が上がるのは単なる期待論ではないことが分かります。一方で社員に問題がまったくないかというと、そういうわけではありません。
問題を抱える企業の社員にヒアリングをすると「こんな会社だから仕方がない」「上司がだめなのに、なぜ俺たちが頑張らないといけないんだ」と言います。
しかしそれは、会社や上司に責任を押しつけているだけです。自分たちの行いを振り返って「顧客満足度のためには、上司がどうあれ与えられた仕事はちゃんとこなす」とは考えていないのです。社員側も内省的、つまり視点を自分側に向ける必要があります。
他人からの命令や指示がなくても、人はすでに内側に答えをもっています。行動できないのは、何かしらの事情があるだけです。しかし心理的な事情であれば、本人にしか鍵を開けられません。
上司と社員に共通して必要なのは「今の自分が感じている不満や問題、悩み、苦しみ、怒りは、自分が行動を変容することによって減らすことができるかもしれない」という可能性に気づくことです。内省度を高めていけば思考は広がりをもち始めます。そのような意識改革の場をつくることが、経営者にできることです。
森田 満昭
株式会社ミライズ創研 代表取締役
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