(※写真はイメージです/PIXTA)

ウクライナ侵攻は長引き、泥沼化してロシアは弱体化しつつあります。侵攻の泥沼化はロシアと盟約を交わす中国よりも北朝鮮のほうが強く受けたかもしれません。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

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米中の通貨覇権は激しさを増す

■ロシアと中国の思惑

 

2022年2月4日の北京冬季オリンピックの開会式に、ウクライナ侵攻の可能性が指摘されるなか、ロシアのプーチン大統領が出席しました。両首脳は釣魚台迎賓館で会談しましたが、共同声明では「両国の友情に限界はなく、協力するうえで禁じられた分野はない」「(中露関係は)冷戦時代の軍事同盟にも勝る」と自賛しています。

 

このとき交わした盟約を習近平が果たすとしたら、西側諸国から大量の兵器を供与されたウクライナ軍がロシア軍を悩ましているのですから、中国はロシアに兵器の支援を行わなければなりません。プーチンにしてみれば、「盟約を交わしたんだから、約束どおり協力しろ」という気もちだと思います。

 

しかし、中国はロシアに対して、少なくとも表向きは兵器の支援を行っていません。それは前にも説明したように、中国経済がドル依存の体制になっているからです。露骨に中国がロシア支援を行えば、米国は二次制裁に動かなくてはならなくなります。そうなると、中国経済はもとより、国際金融市場までが崩壊する事態になりかねません。

 

プーチンとの盟約がそこまでのリスクを冒すほどのものだとは習近平も思っていないだろうし、たとえ習近平にその気があったとしても、周りが絶対に許さないはずです。だから、中国は動かない。

 

習近平がプーチンと盟約を交わしたのは、「ロシアと力を合わせてドルの支配から脱しよう」という思惑からだったと思います。ロシアのウクライナ侵攻が短期間のうちに成功していれば、ロシアの軍事力を見せつけることになって、中露の思惑を前進させることに少しでもつながった可能性はあります。

 

しかし侵攻が長引き泥沼化し、ロシアが弱体化していくなかでは、盟約の思惑を前進させるのは難しい状況です。習近平にしてみれば、思惑が外れたという思いでしかないはずです。そうなると、中国がロシアを積極的に支援するのは、かなり難しい。

 

ロシアのウクライナ侵攻と呼応して中国が台湾侵攻に乗り出すとの見方がまことしやかに流されていましたが、それはないだろうと私は考えていました。中国が台湾問題を軍事力で一気に解決するのは、ドル覇権を握っている米国の報復を考えれば、繰り返しますが、自国経済がドル依存であるがゆえに、簡単にできるものではないからです。

 

それより真実味があるのが、プーチンとの盟約を利用して、習近平が北朝鮮にウクライナ侵攻を視察に行かせたという話です。侵攻が簡単に成功するところを北朝鮮に見せ、韓国侵攻を本気で考えさせる狙いがあったと北朝鮮に詳しい人物から聞きました。さらに、中国が台湾侵攻をする際には北朝鮮に協力させようと考えたのかもしれません。

 

それも、ロシアがウクライナ侵攻に手こずったために、逆効果になってしまった。ロシアの実態を目の当たりにして、北朝鮮は韓国侵攻に慎重な姿勢を強めた可能性があります。ウクライナ侵攻の影響は、もしかすると中国よりも北朝鮮のほうが強く受けたかもしれません。中国がロシアのウクライナ侵攻の成功を北朝鮮にほのめかしていたとすれば、北朝鮮の中国に対する信頼も揺らいだことになります。

 

ウクライナ侵攻はロシアが領土を広げようとする試みで、プーチンは帝国復活を夢見ています。中国も同じで、一帯一路も自らの影響が及ぶ地域を拡大する試みで、領土拡大です。その流れの一環に台湾もあれば尖閣諸島もある。

 

新中華帝国主義は、相手をとり込むために自国の企業、人員、自国の銀行を動員する。そして自国の通貨をフルに利用する。現在の国際金融システムがドル中心になっていて、その縛りから脱するためには、占領によって強制的に自国通貨を使わせるしかない。ドルと対抗するには、それしかありません。さらにプロジェクト完成後は〝敵〞の通貨であるドルの債務を相手国に押し付けて支払い不能にし、港や鉄道、道路を「接収」する。

 

対してロシアのウクライナ侵攻は、軍事力を使った領土拡大であり、ドルの縛りを文字どおり吹き飛ばすやり方です。エネルギー価格、穀物価格を高騰させ、モノに対するドルの価値を下げさせる。それによって、ドルによる世界経済支配を弱める狙いです。

 

その対価は世界にとって大きく、高価になるばかりのエネルギーや穀物を入手できなくなるアフリカなどの途上国では暴動が続発しています。ロシア国民自体も今後長期低迷する経済のもと、困窮が続くでしょう。

 

そのロシアの経験から、中国も軍事力によるドル覇権の突き崩しの難しさを直視しているに違いありません。だからこそ、一帯一路のような、中国の人民元集団を動員して対外膨張の攻勢を強めるのです。通貨覇権をめぐる米中のぶつかり合いは今後、激しくなっていくでしょう。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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