高齢のアパート経営者が「家族信託」を活用するメリット・デメリット【司法書士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

日本で少子高齢化が進むにつれ、資産の管理方法についても、深刻な社会問題になってきています。管理方法のひとつとして、認知症などで判断能力がなくなる前に、自分の財産の管理をする権限を家族に与えておける「家族信託」があります。本記事では、アパート経営者が家族信託を活用することのメリットとデメリットについて、司法書士の菱田陽介氏が解説します。

高齢のアパートオーナー、「家族信託」を検討

専業アパートオーナー一家の例

■家族構成

A(73歳男性)、B(妻67歳)、C(長男34歳)、D(Cの妻31歳)の4名

 

Aが所有する築35年1棟アパートの1室にABは同居、長男Cはアパートの別の1室に妻Dと居住している。CDに子はいない。Aに身体機能の衰えがみえてきているが、判断能力はしっかりしている。

 

Aの主な収入は1棟のアパート(50部屋)の家賃収入と月8万円の年金。ABC一家は専業の大家で、アパートの家賃収入で生計を立てている。現在のアパートの管理とAの財産管理はAとCが協力し合って行っている。主な財産は1棟のアパートと預金5,000万円。

 

信託を検討したきっかけ

Aは自身の加齢により、将来、一家を支えている1棟のアパートの大規模修繕や建替えの際、銀行から融資を受けることができるか心配している。ABC一家はこれまで家賃収入を自由に使い生活してきているが、Aが加齢による判断能力の著しい低下があってもこの生活を続けたいとABCともに希望している。

 

Aは最初にBCとAの顧問税理士に不安を相談したところ、家族信託という方法を知り、税理士に司法書士を紹介してもらった。

 

本ケースの家族信託の概要

■家族信託の目的

・通常のアパート管理と大規模修繕、借入れへの対応

・Aの生涯にわたり、質の変わらない生活を維持する

・AからCにアパートを承継させる

 

■家族信託の実施内容

A所有のアパートを長男Cが受託者として信託契約を締結。受託者C名義の信託専用口座の開設、受託者C名義とする不動産登記を行った。Cの責任において、アパートと預金を管理し、アパート経営を継続している。

家族信託を活用することのメリットとデメリット

家族信託を実施する目的としては、①資産を安全に管理すること、②高齢や判断能力の低下が予測される親族の生活を支援すること、③資産を承継していくこと、が挙げられる。これらの目的に沿わない動機や家庭環境で信託を進めるとトラブルが発生する可能性が高い。

 

家族信託のメリット

■所有者に発生するリスクを回避することができる

事例のように、不動産経営で生計を立てている家族においては、物件所有者の高齢化から発生するリスクに備えることができる。たとえば、判断能力低下による銀行取引や不動産取引ができなくなることがリスクに挙げられる。

 

■若い受託者の信用を活用できる

銀行取引が必要な場合、所有者の子などの若い人を受託者にすることにより、受託者の信用で借入れができる。これにより、長期の不動産管理にかかるファイナンスの問題に対応できる選択肢が増える。いわゆる「信託内借入れ(※)」が可能となる。

 

※信託内借入れ:受託者を債務者として借入れをすること。借り入れたお金は信託財産となる。

 

■長期の資産管理体制をつくれる

信託の期間として、現所有者が亡くなった時点で終わらせることもできるが、所有者の子が亡くなるまで信託の期間とすることもできる。いわゆる「受益者連続型」である。

 

■相続対策ができる

多くの場合、委託者の死亡により信託が終了することになるが、信託財産になっているアパートなどを誰に引き継がせるかを契約で決めておくことで、遺言書と同様の効果を得ることができる。

 

家族信託のデメリット

家族信託は、長期にわたる財産管理体制をつくることが多い。家族信託をしようと決めたときに望んだことが達成されないこと、達成を阻むトラブルが起きることがデメリットといえよう。

 

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    著者紹介

    菱田司法書士事務所 代表

    東京都生まれ。明治大学法学部卒業。都内の司法書士事務所で経験を積み、のちに菱田司法書士事務所に移る。相続、遺言、不動産に関する案件を多く手掛けている。

    菱田司法書士事務所は、東京都大田区大森で85年以上にわたって相続の問題を扱っている老舗。現在の代表は4代目に当たる。

    菱田司法書士事務所ウェブサイト:https://hishida-jimusho.net/

    著者紹介

    連載入口戦略から出口戦略まで完全網羅「堅実なアパート経営」のススメ

    本記事は『アパート経営オンライン』内記事を一部抜粋、再編集したものです。

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