(※写真はイメージです/PIXTA)

日本で少子高齢化が進むにつれ、資産の管理方法についても、深刻な社会問題になってきています。管理方法のひとつとして、認知症などで判断能力がなくなる前に、自分の財産の管理をする権限を家族に与えておける「家族信託」があります。本記事では、アパート経営者が家族信託を活用することのメリットとデメリットについて、司法書士の菱田陽介氏が解説します。

家族信託でトラブルとなった具体例

無理に進めようとして、結局家族信託ができない

資産の管理を他者に委ね、承継していくには、責任をもって財産を管理できる受託者の存在が必要である。受託者は若いだけでなく、信頼できる人格や財産管理能力が求められる。

 

人が銀行にお金を不安なく預けるのは、当然の信頼と管理体制が整っているからであろう。それにも関わらず、委託者と年齢の近い高齢者を受託者にすることを希望されるケースがある。これは、独身者の財産を信託したいケースや、子が海外にいるケースに見受けられる。

 

高齢の委託者の兄弟姉妹を受託者にしないと、ほかの兄弟からの理解が得にくいから、海外在住の子に日本国内の財産管理は実質無理であるから、委託者の妻しか受託者に選べない等である。こういった場合は、家族信託を設計していくうえで、公正証書での契約書作成、信託用口座の開設、不動産の信託登記と将来の不動産売却というそれぞれの過程で、ストップしてしまうことがある。

 

信託契約の当事者である委託者と受託者が共に高齢で、複雑な信託契約を理解できているのか? 受託者が財産管理責任を負えるのか? 不動産の名義が変わることを理解できるか? 受託者が不動産を売却する時点でも判断能力が十分にあるといえるか? 

 

受託者の適正が無い状態だとこのような疑念が発生し、公証役場、金融機関、司法書士等の法律専門職が各自に設けている基準を満たさなければ、望みどおりの家族信託の実現は難しく、時間と費用の投資に失敗する可能性が高い。

 

財産を管理、承継する法制度は信託だけではない。後見制度や遺言書などさまざまな方法の特徴をしっかりと理解し、自由に方法を選択できるコンディションが整っている時期に実行されることが望ましい。

 

受託者主導の家族信託で後日の紛争が起きる

家族信託の本来の姿は、委託者の希望に沿って委託者の意思が反映されるものであるが、どうしても高齢者のアパートオーナーの子から相談が多くなる。そうすると、どうしても受託者の都合が優先される家族信託のかたちになってくる。

 

いまの家族、将来の相続人たちの関係が良好であり、各人が経済的にも精神的にも豊かな人々であれば紛争発生のデメリットは少ないであろう。

 

実際に裁判で争われるのは、受託者や、一部の相続人の権利だけが優先され、明らかにほかの相続人の権利を侵害するような信託契約の場合である。

 

「家族信託」というイメージには円満かつ円滑な資産承継のイメージが含まれていると思うが、このような信託はその期待を裏切る。不動産の信託においては信託契約の内容の一部は登記され情報が公開されるので、いい意味では情報の透明性が高く、悪くいえば悪事がばれやすいことを覚えておいていただきたい。

 

期待していた借入れができない

これも実際の訴訟にいたった例がある。事例のように、将来の大規模修繕に備えて家族信託を行い、受託者の責任で大きな金額の借入れができるようにしたい。というのが家族信託を実施する大目的である。それにも関わらず、信託契約をつくっていく過程や内容に金融機関の基準を満たさないものがあれば借入れはできないデメリットがある。

 

これは信託が普及していくと、融資の条件が緩和されてリスクは低下していくかもしれないが、現段階においては信託をされた不動産に対する融資は、まだ金融機関にとってはイレギュラーな案件であり、慎重に信託の組成を進めていく必要がある。アパートの長期運用にかかる資金をしっかり計算し、金融機関との信頼関係をつくっておくことは重要ポイントと思われる。

 

「家族で資産を管理していきたい」「資産を引き継いでいきたい」という願いをもって家族信託を選択したが、そのとおりの結果が得られないこともあり得ると理解していただきたい。

 

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本記事は『アパート経営オンライン』内記事を一部抜粋、再編集したものです。

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