裁判所が貸主に「契約解除」を認めた5つの根拠
しかし、裁判所は、賃借人が大きな火力を扱うラーメン店経営者であることを重視し、以下の理由により、賃借人の過失や焼損の程度がいずれも軽微ではないとして、信頼関係破壊による解除を認めました。
1つの事例の判断ではありますが、飲食店における火災発生事案の判断として参考になります。
【東京地方裁判所平成26年10月20日判決 判旨】
1.賃借人は、飲食店を経営する法人であり、しかも、ラーメン店や中華料理店は、飲食店のなかでも大きな火力を使うのが一般的であるから、その営業に関して火災を発生させ他人の生命・身体・財産を侵害することのないよう最大限の注意を払うことが要求されるというべきであり、その注意義務の程度が一般家庭における火の始末と同程度のもので足りるとは到底解されない。
2.そして、本件ラーメン店において、出火原因となった大型ガスコンロは、3器がステンレス板を張った壁にほぼ接着する形で設置されていたこと、営業時間中、3器のうちのどれか1つは常時点火されていたことは当事者間に争いがないところ、壁に張り付けたステンレスは、裏の木材に熱を伝導させること、木材を加熱すればある温度で自然発火することは、常識の範囲に属する知識であり、さらに、飲食店のように常時ガスコンロを使用する場合、ガスコンロに近い壁面が長時間かつ長期間加熱されることにより木材の炭化と熱の蓄積が進み、比較的低温でも発火しやすくなる可能性があることも、少なくとも飲食店経営者であれば認識しておくべき基本的な知識である。すなわち、本件火災は、大型ガスコンロの設置場所の悪さ(壁との近接性)とそれまでの使用による内壁への加熱が相まって、起こるべくして起こったものというべきであり、本件ラーメン店開業以来15年間火災が発生しなかったことをもって、本件火災が突如発生したものであるとか、偶々発生したものであると考えることはできない。
3.したがって、賃借人は、大型ガスコンロと壁との間隔を十分取るか、それができない場合には、点火時間の短縮を図ったり、壁とのあいだに防熱板を設置するなどして、伝導過熱が生じにくい環境を作らなければならなかったというべきであり、これを怠ったことにより生じた本件火災は、賃借人である賃借人の責めに帰すべき事由によって発生したものと認められ、その過失の程度も決して軽微なものとはいえない。
4.また、本件火災における直接的な焼損は、内壁4m2と報告されているものの、伝導過熱による内壁からの出火という態様の性質上、消火活動は壁面を破壊して行うほかなく、これによる建物の損壊は「焼損」に含めて評価するのが相当であるから、その程度が極めて軽微なものということはできない。
5.これらの事情に照らすと、本件火災については、過失の態様および焼損の程度が極めて軽微である等の特段の事情は認められないから、賃借人がその責に帰すべき事由により火災を発生させたこと自体によって、本件賃貸借契約の基礎をなす貸主とのあいだの信頼関係に破綻を生じさせるに至ったというべきである。
※この記事は、2022年9月3日時点の情報に基づいて書かれています(2023年1月9日再監修済)。
北村 亮典
弁護士
大江・田中・大宅法律事務所
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