ホモ・サピエンスが勝利した理由
本書には、虚構について語るという、ほかのどんな動物も持っていない能力を獲得したことがホモ・サピエンスを特別な存在に押し上げたと書かれています。
虚構、すなわち架空の事物について語れることで、ホモ・サピエンスである我々は天地創造の物語や近代国家における民主主義のような共通の神話を紡ぎだす力を手に入れました。この能力が、無数の赤の他人と柔軟に協力することを可能にさせたというのです。まさに、イメージする生き物になれたことが、ホモ・サピエンスの勝利の要因なのです。
それだけでなく、この虚構の発明によって、個人の虚構を他者と共有することができるようになったことから、組織で行動することができるようになりました。大きなマンモスを狩れるのは、強いネアンデルタールではなく組織をつくったホモ・サピエンスだったということです。
これからの時代の理想の「リーダー像」
我々ホモ・サピエンスは、虚構の発明によって組織で行動する力を獲得し、ほかのどんな動物にも勝利できる存在となりました。その能力は、文化や宗教、貨幣など、次々と共通の虚構をつくり出しましたが、勝ち残っていくなかで膨大な数になってしまったホモ・サピエンスの同種内で、異なる虚構を共有する組織が発生していくことになります。
そして、それが戦争や生態系の破壊を招き、いまではホモ・サピエンス自体の存続も危ぶまれるような状況を生み出しています。
こうした事態を防ぐために必要な存在がリーダーです。リーダーは、目的実現のために新たな虚構をつくり出し、もともと異なる虚構を持っていた大勢に新たな虚構を共有して率いていくのです。リーダーには、大勢に共通の虚構を共有させる力と、未来への責任があるのです。
企業が「成長できない」根本原因とは?
筆者は、個々人が持つ思考のクセや、それによる認識のずれ、発生する錯覚について解説し、組織運営の原理原則を日々お伝えしています。まさに、本書がいう虚構を、単なる虚構と事実とに分類し、事実の部分を積み重ねることで、「ずれのない虚構」をつくることが重要任務となっています。
その仕事は、虚構の発明によって獲得した「組織として動く力」が、虚構のずれによって機能していない状態を修正していく作業となります。戦争や生態系の破壊は別々につくられた虚構同士の争いや、本来目指していた虚構について構成員の認識がずれていったことに起因します。
これは、部署間でいがみ合っている会社や、よかれと思ってやったことが結果的に自分たちを苦しめている会社とよく似ています。そういった会社でも、ルールで虚構を統一したうえで、向かうべき虚構である目標を設定し、全員が勝利できる環境をつくることができれば、信じられない速度で問題が解決し、組織が成長していくはずです。実際、そんな企業を目の当たりにすることはよくあります。
渡會 剛至
株式会社識学
大阪営業部 課長/シニアコンサルタント