(※写真はイメージです/PIXTA)

ロシア経済の荒廃は儲けのチャンスです。そこで誰が得するかといえば、間違いなくアメリカです。ウクライナ侵攻は、ますます米国のドル覇権が強まる結果をもたらすことになります。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

天然ガス代金のルーブル決済を要求するワケ

旧ソ連時代に蓄積した核など兵器産業以外に製造業をもたず、エネルギー収入に頼るロシアは、いくら外貨をエネルギー輸出で稼いでも、所詮はドル支配からは逃れられないのです。

 

だからひたすら強権的な指導者が「剣」を振るって、周辺諸国を屈服させるしかない。しかしながら通貨ルーブルは「剣」を支えることもできません。せいぜい通貨で頼れるのは中国の人民元だということで、CIPS決済を媒介にした中露通貨同盟を築こうとしているわけです。

 

しかし一方で先述したようにそもそも人民元自体、ドルに準拠しています。人民元がドルの裏付けを失えば信用が失墜し、CIPS経由のロシアのルーブル決済は困難になります。

 

だからこそ、プーチンは欧州の天然ガス代金決済をルーブルにせよと迫っているのです。狙いのひとつはそれだけ西側のルーブル需要が高まり、ユーロに対するルーブル価値が安定すること。ユーロはドルと同等の国際通貨ですから、ルーブルはドルに対しても安定するということになります。

 

そればかりではありません。プーチンは通貨当局に金本位制の検討を命じているという情報が2022年4月にロイター電で流れ、日本国内でもちょっとした話題になりました。

 

ロシアは石油、天然ガス、穀物さらに金という代表的な国際商品の産出国です。国際商品市況はエネルギー価格に引っ張られて上昇を続けています。金もそうです。石油や天然ガスに連動して相場が上昇する金とルーブルを一定の交換比率で結び付ける。ロシアにはそれができるし、ルーブルの価値は高く、安定します。それで世界はルーブルを欲しがり、ロシアに投資が殺到するだろうと、金融制裁に脅かされているプーチン大統領が夢想してもおかしくないでしょう。

 

ただし金本位制といっても、ロシア国内で出回るルーブルをもつロシア国民が、そのルーブルを金に公定価格で換えてもらえるという意味ではありません。ルーブルの現金と当座性預金合計は2022年5月時点でドル換算約5400億ドル、これに定期性預金を加えると1兆700億ドルに達します。ロシア中央銀行の金準備は1342億ドルですから、金が圧倒的に足りない。ロシア国内のルーブルを公定レートで金に換えることは不可能なのです。

 

つまりルーブルの金本位制というのは、海外の通貨当局が保有するルーブルについて、ロシア中央銀行は金への交換に応じるという意味です。

 

当然、金に裏打ちされたルーブル相場はドルやユーロなど他通貨に対して数段強くなるはずです。

 

それでも、金との交換はとても無理です。世界全体の外貨準備総額は12兆5500億ドルとロシア中央銀行の金準備額の94倍にもなります。世界全体の公的金準備は2022年5月時点で3万5427トンですが、このうちロシアは2298トンにすぎません。米国8133トン、ドイツ3355トン、イタリア2451トン、フランス2436トンと、米欧に圧倒されています。

 

その米国は1971年にさっさとドルと金の交換停止に踏み切っています。それでも基軸通貨の座は確保どころか、さらに強化されました。世界で流通するモノや金融商品がドル建てであるからこそ覇権通貨になれるのです。

 

ちなみにロシアは世界第3位の産金国で、産出量は年間300トン、第1位の中国が370トンです。金本位制は通貨覇権を狙う中国ならやりそうだとの見方がありますが、中国共産党がストックや生産に限りがある金と心中するはずはありません。人民元は金リンクなしで量的拡大が進む基軸通貨ドルと連動させることで、価値を保ちます。

 

それと同時に、経済成長の原資となるのです。ドル、ユーロ、日本円と違って人民元だけが金と交換できるというなら、人民元の対ドル相場は数倍、数十、数百倍にも上昇するでしょう。しかし、そのときは中国の輸出競争力が失われ、深刻なデフレ不況に見舞われ、共産党独裁体制は根底から揺らぐでしょう。
 

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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