(※写真はイメージです/PIXTA)

中国のGDPはロシアの10倍、米国の7割に達します。世界第2位のGDP超大国の中国が大規模な金融制裁を受けると、国際金融不安を誘発しかねません。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

中国のGDPはロシアの10倍、米国の7割

■資本逃避と戦う習近平政権

 

習近平政権は2020年以来、米金融資本大手の100パーセント出資子会社を認め、海外からの証券投資による負債を増やし、そのまま外貨準備に組み込んでいます。ところが資本逃避が大きすぎて、外準はほとんど増えません。

 

習近平政権はもちろん、宿痾である資本逃避を押さえ込もうと試みてきました。ビットコイン取引の全面停止、闇の資金取引の場であるマカオのカジノの「VIPルーム」閉鎖、個人の海外への外貨もち出し制限年間5万ドルの厳格化など挙げればきりがありません。それでも、資本逃避規模が目立って縮小しないのは、人民元資金がほぼ自由にドルに転換できる香港金融市場を締め上げることができないからです。

 

習政権は2020年6月末の香港への国家安全維持法適用で、政治支配を徹底し、民主勢力の弾圧と同時に不正蓄財の高官による資産もち出しを監視できるようにしましたが、金融規制によって自由な市場機能を壊すことは避けています。香港市場は依然として本土にとって最大の外貨流入口であるからです。

 

香港と上海、深圳の証券市場は相互に結ばれ、米ドルと自由に交換できる香港ドルで、対中証券投資ができます。上海、深圳市場からは人民元でそのまま香港市場で株式や債券の売買ができ、本土の投資家は大口の人民元資金をドル資産に換えられます。習政権は香港株式市場に本土の国有企業大手や新興企業を続々と上場させ、香港市場の中国化を成し遂げつつあります。香港上場の本土企業の時価総額や取引シェアは全体の8割前後に達します。

 

中国本土の党幹部や富裕層は香港に現地法人を設立し、そこからさらにケイマン諸島などタックスヘイブン(租税回避地)にペーパーカンパニーを設立して、巨額の資本を香港とのあいだで出し入れし、香港と本土間で資産を売買します。巨額の資本逃避は資本規制をかいくぐる「自由香港」の産物なのです。これもまた、習政権の意図をぶち壊すグローバルなドル金融の威力のすさまじさなのです。

 

■全面攻勢に出られない米国

 

しかし、国際金融の現実はかなり複雑怪奇です。米国もまた中国金融不安を恐れます。グローバル金融に占める中国シェアが巨大で、下手をするとドルの国際金融市場に返り血を浴びかねないからです。

 

覇権国米国はドルの威力で国際金融システムを壊すことは避けたがるのです。政治的に「やるぞ」と言っても、実際には避けます。習政権はそんな米国の迷いを見極めようとしています。

 

中国のGDPはロシアの10倍、米国の7割に達します。中国の四大国有商業銀行は世界の銀行資産規模ランキングで上位トップ4を占めます。

 

世界第2位のGDP超大国中国が大規模な金融制裁を受けると、国際金融不安を誘発しかねません。その点はロシア制裁の国際的帰結とは様相が大きく異なるのです。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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