(写真はイメージです/PIXTA)

欧州経済は、コロナ禍からの回復を着実に進める一方、ロシアがウクライナに侵攻して以降はエネルギーの供給懸念や価格高騰の影響を大きく受けています。はたして、2023年はどうなるのでしょうか。ニッセイ基礎研究所、伊藤さゆり氏と高山武士氏の分析です。

金融政策・長期金利の現状・見通し

金融政策:ECBは積極利上げでインフレ抑制姿勢を強調

ECBは高インフレを受けて、積極的な金融引き締めに動いている。

 

今年上半期には段階的に量的緩和を縮小し*14、7月の会合で0.50%ポイントの利上げを実施してマイナス金利政策を終了させた。その後、9・10月には0.75%ポイント、12月に0.50%ポイントの利上げを行い、政策金利を合計2.50%ポイント引き上げている*15。また、12月の会合ではバランシートの縮小を23年3月初めから開始することも決定した(まずは23年6月末まで月150億ユーロのペースで削減)。

 

政策金利は、緩和的な金融政策水準から引き締め的な水準に移行しており、どこまで政策金利を上げるのか、という点に注目が集まっている(10月のECBによる専門家調査*16では長期均衡金利の中央値が預金ファシリティ金利で2.00%とされ、現在の水準が2.00%)。ECBでは「中立金利」(緩和的でも引き締め的でもない金利水準)の計測は困難で、様々な見方もあることから、「データ依存」の「会合毎アプローチ(meeting~by~meeting approach)」を行うことを強調しつつ、2%目標の達成に向けて、十分引き締め的な政策金利水準を維持する姿勢を示している。

 

今後の政策金利パスを予想する上では、今後の経済・金融環境がこれまで以上に重要となるが、高いインフレ率と、ECBが重視する期待インフレ率が上向いている状況を勘案すれば、インフレ率の明確にピークアウトし、期待インフレ率が2%で安定するまではタカ派姿勢を続けると考えられる(図表20)

 

政策金利は、現在主要リファレンスオペ金利で2.50%、預金ファシリティ金利で2.00%であるが、23年前半にそれぞれ3.50%、3.00%まで引き上げられ、23年中はその水準で推移、その後、インフレ率が十分に低下する24年に入った後に利下げに転じると予想している。

 

イタリアでは9月に総選挙が実施され、10月に右派の「イタリアの同胞」党首であるメローニ氏が首相に就任した。同じく右派の「同盟」と「フォルツァ・イタリア」との連立政権となるが、EUとの連携を強調する姿勢を見せており、現時点では財政不安やEUとの協調が乱れるという懸念からの長期金利への上昇圧力は抑制されている(図表21)

 

【図表20】【図表21】
【図表20】【図表21】

 

メインシナリオでは、今後もイタリアをはじめ、各国の財政運営や政局の混乱による金融市場の混乱は想定していない。ECBは、6月にPEPPの償還再投資を柔軟化(重点的に南欧債に再投資を実施)することで、域内の金利差が拡大する「分断化(fragmentation)」の防止を決めているが、7月に導入した新しい分断化防止手段である「伝達保護措置(TPI:Transmission Protection Instrument)」の発動はされないものと想定している。

 

*14:コロナ禍で導入した量的緩和策であるPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)は22年3月末で終了、コロナ禍前から実施していたAPP(資産購入プログラム)は7月1日に終了した。なお、コロナ禍で導入した流動性供給策である優遇金利の貸出条件付資金供給オペ(TLTROⅢ)は21年12月に最後のオペを実施し終了している。

*15:10月の理事会では合わせてTLTROIIIの貸出条件の変更および早期返済日を追加し、資金調達環境が緩和的にならないよう流動性供給策の調整も実施している。

*16:The ECB Survey of Monetary Analysts, Aggregated Results, October 2022

長期金利:インフレ警戒感から上昇余地

現在、ユーロ圏の長期金利は2%付近で推移している。

 

ただし、ECBや米FRBがインフレ警戒感を強め、また需給の観点からはバランスシートの縮小や国債発行増が見込まれるため、金利上昇余地があると予想している。

 

ドイツ10年債金利は22年で平均1.2%だが、今後は23年平均で2.4%、24年は平均2.1%で推移すると想定している(前掲図表18、表紙図表2)

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年12月16日に公開したレポートを転載したものです。

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