市場の圧力に屈した日銀
今回の日銀の政策変更は、新たな火ダネとなる可能性がある。日本国外の市場参加者は、長らくYCCの上限を超えた長期金利の上昇を日銀が許容せざるを得なくなると見て、日本国債先物を売り仕掛けていた。
日銀にとって見れば、国債の保有残高は拡大し続け、市場メカニズムがはたらかなくなる懸念もあった。それについては、日銀自身認めるところである。
今回は、タイミングは意外ではあったものの、市場の催促に負けたとも言える格好で、長期金利は、実際に急騰してしまった。
今回のような、投機筋の成功体験は、さらなる金利上昇観測を強める可能性がある。そうなると、YCCの上限である0.50%を超えるような債券売りを仕掛けてくる可能性も考えられる。
加えて、日本でも物価は上昇し始めており、日銀がこれを理由にYCCを解除する時期も近づいているとの見方が強まれば、日本国債市場には下落圧力が高まることも十分考えられる。
黒田総裁の説明責任は?
これまで、YCC修正に頑なまでに異を唱えてきた黒田総裁には、今回、姿勢を転換した理由を説明するべきと感じる市場参加者は多いだろう。
残された任期中に、新総裁が、日銀の政策を柔軟に実行できるよう、先んじて行動したとの解釈もある。タイミング的には、年末のクリスマス前で、海外勢がほとんどいないというタイミングも決断を促したかもしれない。
今回の判断に至った理由はいくつも推察できるが、政策を変更したことに変わりはなく、市場との対話として説明する必要はあるだろう。残念ながら、発表後の黒田総裁の記者会見では、説明したとはいえないのではないか。
日銀は2023年度のコアCPIの上昇率が1.6%まで減速するとの予想も変えていない。記者会見でも、黒田総裁は、インフレ率2%の達成は見通せないので、金融政策の点検や検証は時期尚早に尽きると明言した。
これを真に受ければ、金融緩和政策が大きく修正され、政策の正常化に向けて軌道修正が行われることは、まだ先のことということになる。しかし、これまで容認することなく、抑え込んできた債券利回りの上昇を認めたことが日本経済や市場に与える影響は大きい。
金融市場は、円安や価格転嫁の動き、賃上げ圧力を念頭に、CPIの予想を超えた上昇を日銀が懸念し始めたと勘ぐり始める可能性もあるのではないか。
2023年の相場は、ムービングピースの多さから複雑な動きに
2022年は世界の主要中銀が、積極的に金融引締め、利上げを推進する中、日銀は緩和姿勢を維持する最後のランナーだった。その日銀が緩和方針を転換したことは、世界の金融市場にもインパクトを与えることになる。
折しも、FRBだけでなくECBがQT「量的緩和の終了」を開始すると決めたばかりであり、主要中銀が金融引締めでシンクロすることは、債券利回りの上昇圧力になるだろう。
金利上昇と量的な引き締めは、リスク資産への選好度を下げることになる。リセッションの可能性も睨んで、保守的なスタンスが求められよう。
為替市場も、ドル一強は一区切りとなり、インフレ抑制の成否とリセッションの可能性との両睨みで、より難しい相場展開となる。
ただし、ドル円は、金利差だけで決まる単純なものではない。日本の経常赤字の問題や成長力の問題など、本質的な問いを見据えておく慎重さも求められるだろう。
2023年は、ムービングピースの多さから複雑な相場の動きになることを念頭に、投資戦略を再考しておく必要がある。
長谷川 建一
Wells Global Asset Management Limited, CEO/国際金融ストラテジスト<在香港>