(※写真はイメージです/PIXTA)

語呂合わせと聞くと何だか程度の低い記憶法と思いがちですが、記号としての数字に意味を持たせるという点において、認知心理学のメカニズムを活用した立派な記憶法です。記憶力日本選手権大会6回の最多優勝者の池田義博氏が著書『世界記憶力選手権グランドマスターの驚くほど簡単な記憶法』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

単なる記号である数字を記憶するには

(2)数字を覚える方法

 

ビジネスにおいては、さすがに円周率のような長い数字を覚えなければならない状況というのはあまり考えられません。しかし例えば、営業やマーケティングにおいて頭に入れておくべき数字や、そのほかの職種でも仕事に必要な特殊な定数のようなものは存在すると思います。

 

現在では、スマートフォンなどの電子機器にデータを保管したり検索ができたりするので、それに頼っているという方も多いでしょう。

 

しかし、ビジネスにおける知的生産性を考えた場合、データを検索してから確認し、そこから思考を働かせるとすれば、迅速さという点においてはマイナスです。すでに頭に入っているデータというものは、単に数字の情報ではなく、ほかの関連するデータと比較して、相対的な位置まで理解できているということになります。要するに、単なる数字ではなく、使える情報というわけです。

 

数字の記憶に話を戻しましょう。人間が一度に覚えることができる数字の量は、一般的にはおよそ7個前後といわれています。人から聞います。その数字でさえ、口で何度も繰り返し唱え続けないと、記憶に定着させることはできません。これではさすがに非効率です。

 

数字とは、いわば単なる記号です。記憶において工夫をせずに記号を覚えるというのは、至難の業なのです。となると、そこから導き出される最適な方法は、数字に意味を持たせることです。意味を持たせるとは、数字にイメージを割り当てるということになります。

 

その方法はいくつか存在しますが、ここでは誰でもほとんど抵抗なくできる方法を紹介します。それが「語呂合わせ」です。歴史の勉強に出てくる年表の年号を覚えるときに、「鳴くよ(794)ウグイス平安京」などのようによく使われるので、皆さんもなじみがあるのではないでしょうか。

 

語呂合わせと聞くと、何だか程度の低い記憶法と思われがちなのですが、それは大間違いです。語呂合わせとは、記号としての数字に意味を持たせるという点において、認知心理学の「精緻化」の1つなのです。つまり、語呂合わせは、認知心理学のメカニズムが含まれている立派な記憶法なのです。

 

数字の語呂合わせですが、各数字に当てはめる文字は、極論すると自分だけにわかればいいので、かなりの許容度があります。例えば、2であれば英語のtwo から「つ」などを割り当てても違和感はないでしょう。ただし、割り当てる文字の許容度は高いですが、組み合わせて言葉を作るさいには、ちょっとしたコツがあります。

 

数字の語呂合わせは、2桁ずつ作ると言葉の選択肢が広がります。例えば、15はイチとゴで(イチゴ)、44をシシと読んで(獅子舞)、73をナミと読んで(涙)といった具合です。そうして作った言葉同士をストーリーでつなげておけば、ある程度の長さの数字を覚えておくことができます。先程の154473であれば、頭の中で「イチゴを獅子舞に食べさせたら涙を流した」というようなイメージを描くことによって、エピソード記憶にすることができます。

 

こうすることで、二重に「精緻化」の効果が働き、記憶が強化されるのです。

 

(3)各種の情報を覚える方法

 

仕事でも勉強でも、何かを思い出すという行為は、ほとんどが「□□は何?」という問いに対する「それは△△」という1つの答えを見つけ出す行為にほかなりません。極論すれば、試験勉強における暗記などは、ほとんどこのパターンで対応することができます。

 

英単語を覚えるときなども、「opinion の意味は?」「意見」というような1対1のセットで覚えることで、英単語から日本語、あるいは、日本語から英単語というように相手を思い出すことができるわけです。

 

ビジネスにおいても同様に、「昨年のレインボー社の経常利益は?」「3983万円」といった具合です。

 

要するに、仕事や勉強、または、そのほかの日常生活において、ほとんどの知識や情報はこの1対1のセット、つまり、片方を問われたときにその相手を答えられさえすれば対処できるというわけです。まずは、覚えるべき対象を1対1のセットに整理することが肝要ということです。

 

そしてここでも、記憶能力を上げるためにイメージの力を借りるのですが、使うテクニックは「ペアリング」です。

 

ペアリングとは、2つの言葉のイメージを組み合わせて1つのイメージを作る方法です。この工程が「精緻化」になるというわけです。

 

先程の「レインボー社の経常利益は3983万円」のセットを例にすると、レインボーは「虹」、39は「サクラ」、83は「ハサミ」ということで、頭の中に「虹の上で桜の花びらをはさみで切っている」というようなイメージを作るわけです。突飛なイメージにする程、記憶には残りやすくなります。

 

ポイントは、記憶するさいには一緒に文字情報も覚えようとはしないことです。せっかくイメージ化して情報の圧縮をしているので、文字や数字の情報も一緒に覚えようとするのは本末転倒です。イメージさえしっかり頭に入っていれば、「虹だからレインボー社、桜だから39、はさみだから83」というように、解凍することは容易なのです。

 

以上をまとめると、覚えなければならない情報は、まず、1対1の関係性になるように整理します。そして、セットになったあとは、それぞれを組み合わせて1つのイメージを作り、イメージの情報だけを覚えるようにします。思い出すときは、イメージの中にヒントがあるので、それを基にオリジナルの情報に解凍するという手順です。

 

先程の例では、1つのイメージに3つの情報を組み込みましたが、ペアリングが上達していくと、1つのイメージの中に入れ込む情報の数を増やしていくこともできるようになります。

 

池田 義博
記憶力日本選手権大会最多優勝者(6回)
世界記憶力グランドマスター

 

 

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本連載は池田義博氏の著書『世界記憶力選手権グランドマスターの 驚くほど簡単な記憶法』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再編集したものです。

世界記憶力選手権グランドマスターの驚くほど簡単な記憶法

世界記憶力選手権グランドマスターの驚くほど簡単な記憶法

池田 義博

日本能率協会マネジメントセンター

在宅勤務など個人単位で働く機会が増え、従来よりも個人の成果に焦点があてられ、成果物の質を決める「思考力」が要求されています。まずは頭の中の知識・情報の量を増やし、これらを有機的に結び付け、価値のあるアイデアを生…

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